囲い込みとは何か?なぜ不動産業界で問題視されるのか?
囲い込みとは、不動産会社が売主から預かった物件情報を、他社に紹介せずに自社内だけで独占しようとする不正な営業慣習のことです。
ただし、より正確に言うと、囲い込みは「会社」単位だけで起きるものではありません。実際には同じ会社の他支店、他部署、あるいは担当者個人のレベルで行われることが多くあります。なぜなら、不動産会社の多くは支店ごと・担当者ごとに売上が管理されており、自分以外(他支店・他の担当者)が連れてきた買主で成約しても、自分の評価や収入には直結しないためです。極端に言えば、担当者にとっては「売主の利益」より「自分の手数料」が優先せざるを得ない構造があり、これが囲い込みの実態をより根深いものにしています。
不動産取引では、売主から依頼を受けた業者は「レインズ(REINS)」という全国の不動産会社が閲覧可能なデータベースに物件を登録する義務があります。しかし、あえて他社(または社内の他支店・他の担当者)からの問い合わせを「商談中である」と虚偽の回答をして拒否し、自分で買主を見つけることで、売主と買主の双方から仲介手数料(両手仲介)を得ようとするケースが後を絶ちません。
私がこれまで数多くの売却相談を受けてきた経験から申し上げますと、この問題の背景には日本の不動産仲介業における「両手仲介」を優先しすぎる構造的な歪みがあります。売主様の利益を最大化するよりも、自社(あるいは自分自身)の収益を最大化することを優先する不動産会社・担当者が大多数を占めてしまうことが、この課題の根本原因といえます。
この構造をもう少し具体的にお話しします。都内であれば、不動産会社の担当者1人当たりの予算(売上目標)は、一般的に月300万円程度です。一方で、1人の担当者が抱える預かり物件(売却の依頼を受けている物件)は数件から5、6件程度で、そのすべてが毎月売れるわけではありません。担当者としては、できるだけ少ない労力で予算を達成したいと考えるのが自然であり、そうなると「1件を両手仲介で決める」ことが、ちょうど月間のノルマを満たすイメージになります。つまり、あなたが売却を依頼した物件は、担当者にとって最初から「両手仲介の対象」として見られている可能性が高いということです。これは特定の悪質な業者だけの話ではなく、業界の予算構造そのものに根ざした、ごく一般的な力学だとご理解ください。
加えて、物件を預かるための工数(査定対応、資料作成など)は決して小さくなく、その中には委任に至らない案件も多く含まれます。さらに近年は競合他社との間で仲介手数料の値引き合戦や、ハウスクリーニング・引越しサポートなど様々な無料サービスの付帯競争が激しくなっており、そのような付帯サービスをつければつけるほど片手仲介だけでは採算が取りにくいというのが実情です。言い換えれば、両手仲介にしなければ収益構造として芳しくない会社が少なくないのです。
また、件数で稼ごうとしても、大手不動産会社や大手フランチャイズほど店舗同士の距離が近く配置されているため、「この通りを越えたら隣の支店のエリア」というような縄張りが社内に存在することも珍しくありません。そのため、担当者は会社全体の利益のために動くというより、自分の所属する支店の営業活動を優先する傾向が強くなります。これも、同じ会社内であっても他支店からの紹介を歓迎しない構造の一因となっています。
なぜ囲い込みによって売主は損をするのか?
囲い込みが行われると、物件の露出速度の極端な遅延や適切な露出効果の減少が起こり、市場価格よりも安値での売却を余儀なくされる可能性が高まります。
通常、物件情報はオープンにすればするほど、全国の不動産会社を通じて購入希望者の目に触れます。昔のように「地元のお客様だけが来る」というのはもはや幻想で、今は日本全国、さらには海外からも購入検討者が来る時代です。しかし、囲い込みによって物件が「市場から隔離」されると、購入検討者の母数が激減します。私の経験上、適切な市場公開を行えば1ヶ月以内に申し込みが入るような優良物件であっても、囲い込みに遭うと3ヶ月、長いケースでは3年以上も放置されたまま問い合わせがゼロ、あるいは極端に低い価格での指値(値引き交渉)しか来ないという事態が実際に起こります。
仮に8,000万円で売れるはずの物件が、囲い込みの影響で7,500万円で売却することになった場合、売主様は500万円もの損失を被ることになります。これこそが、囲い込みが売主にもたらす最大の経済的リスクなのです。
囲い込みはどのように行われるのか?
現場で最も多く見られる手口は、レインズに登録はするものの、他社からの問い合わせに対して「申し込みが入りました」や「現在商談中です」といった虚偽の回答をして拒絶する手法です。
ただし、これは主に「社外(他社)」向けの断り方です。同じ会社の他支店や別の担当者に対しては、わざわざ「商談中」という婉曲な言い方をする必要がありません。実際には「紹介はしていません」「両手で進める予定です」、あるいは「(虚偽の)検討中のお客様がいます」といった、もっと直接的な言葉で断られることが多くあります。
これは、同じ会社の看板を背負っていても、実態としては各支店・各担当者が独立採算で動いていることの表れです。たとえば、同じ「セブンイレブン」というブランドであっても、店舗ごとに経営者(フランチャイズ加盟店オーナー)が異なれば、売上を他の店舗と分け合うことは基本的にありません。不動産会社の支店間も、これに近い感覚で動いていると考えると実態に近いでしょう。本部(本社)は一つでも、現場の収益は支店・個人ごとに完全に分かれているのです。
ただし、これにも例外があります。支店長同士の人間関係によって、客を紹介する・しないが左右されるケースも実際に存在します。たとえば、物件を抱えている支店(元付)の店長が後輩で、買主を抱えている支店(客付け)の店長が先輩である場合、後輩店長が先輩店長の顔を立てて紹介する、というようなことも現場では起こります。つまり、囲い込みが起きるかどうかは、会社の方針だけでなく、現場の人間関係にも左右されているという側面があるのです。
具体的には以下のプロセスで進行します。
- 売主から物件の売却依頼を受ける(媒介契約)
- 自社のサイトやポータルサイトでの露出を優先し、期日ぎりぎりにレインズに登録する
- 他社、あるいは同じ会社の他支店や別の担当者から「この物件を紹介したい」という連絡が入る
- 自分(自社)で「両手仲介」ができる買主を探すまでの時間稼ぎとして、相手には「担当者が不在で折り返しします」「まだ内見不可」「商談中」と伝える
- 結果として、本来連れてくるはずだった購買意欲の高い顧客を排除してしまう
業界の慣行として「両手仲介」自体は合法ですが、それを実現するために売主への報告を怠ったり、虚偽の情報を伝えたりすることは明確なルール違反です。しかし、売主様自身が「自分の物件が他社や社内の他の担当者からどう見えているか」を確認することは非常に難しく、この構造的な不透明さが問題の解決を阻んでいます。
囲い込みを見分けるにはどうすればよいか?
売主様が自ら囲い込みを見分けるための基本は、レインズへの登録状況を確認し、販売状況を能動的にチェックすることです。
専任・専属専任媒介契約を結んだ場合、業者には「登録証明書」を交付する義務があります。この証明書を使えば、ご自身でインターネット上から物件の登録内容や図面の有無を確認できます。確認方法の詳細は「レインズの『登録証明書』とは?売主が必ず確認すべき物件登録状況のチェック方法」で具体的な手順を解説していますので、そちらをご覧ください。
また、それ以外にも確認すべきポイントは数多くあります。
- ポータルサイト(SUUMOやアットホームなど)とレインズの情報に差異はないか
- 問い合わせ件数・内見件数を具体的な数字で報告してもらえているか
- 販売活動の報告が定期的(最低でも2週間に1回程度)にあるか
現場で実感するのは、売主様が「売れ行きはどうですか?」とこまめに質問することで、業者が「この売主は管理が行き届いている」と感じ、不正な操作をしにくくなるという心理的効果です。
囲い込みを見分けるための具体的なチェックポイントは30項目にわたるため、「不動産売却で囲い込みを見抜く実践チェックリスト30項目」で網羅的にまとめています。契約前・契約後・担当者対応の3段階に分けて確認できますので、ぜひあわせてご覧ください。
囲い込みを防ぐためにできる対策は何か?
最も有効な防衛策は、媒介契約を結ぶ際に「一般媒介契約」を検討する、あるいは専属専任媒介契約・専任媒介契約を締結した場合は、媒介契約締結後速やかに「レインズの閲覧用IDの利用方法」について担当者から説明があるかを確認することです。
専属専任媒介契約または専任媒介契約を結ぶ場合、委任した不動産会社から「レインズの売主用IDとパスワードの利用方法はこちらです」という案内がありますか?これは国土交通省も推奨している方法で、売主様自身がリアルタイムで物件の登録状況や進捗を確認できます。この説明を怠る不動産会社は、何らかのやましい理由がある可能性が極めて高いと判断できます。
また、媒介契約の期間にも注意が必要です。専任媒介契約は法律上3か月を超える期間を定めることができず、自動更新を付けることも認められていません。この点については「専任媒介契約の『自動更新』は無効——裁判例から学ぶ媒介契約の正しい結び方」で詳しく解説しています。
信頼できる業者を見極めるためには、以下の基準も参考にしてください。
- 「両手仲介」のメリットばかりを強調せず、市場全体の動きを客観的に説明してくれるか
- 囲い込みを疑うような質問をした際、納得のいく説明(他社や社内の他の担当者の客付けを歓迎する姿勢)を見せるか
- 販売活動の報告を、最低でも2週間に1回(専属専任媒介においては最低でも1週間に1回)以上、書面やメールで詳細に行ってくれるか
不動産売却は一生に数回の大きな取引です。担当者の営業トークだけでなく、このような仕組みを理解した上で毅然とした態度で臨むことが、ご自身の資産を守る唯一の手段となります。
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まとめ
不動産取引における囲い込みは、売主様の利益を損なう重大なリスクです。最後に、対策の要点をまとめます。
- 囲い込みの正体:不動産会社(あるいは社内の他支店・他の担当者)が仲介手数料を両取り、または独占するために、他社や社内の別の担当者への紹介を不当に拒む不正行為
- 売主への影響:購入検討者の母数が減ることで、本来の市場価値よりも安値で売却せざるを得なくなる
- 見分け方:レインズの登録証明書を取得し、ポータルサイトで他社からの掲載があるか、問い合わせ件数に異常がないかを確認する
- 防衛策:売主用IDの発行を依頼する、販売報告が定期的に行われる業者であるかを入念にチェックする、報告がない場合はセカンドオピニオンを行う、不安であれば媒介契約期間を短く設定する
より具体的な見分け方を知りたい方は、以下の関連記事もあわせてご覧ください。
- 不動産売却で囲い込みを見抜く実践チェックリスト30項目【現役宅建士監修】
- 専任媒介契約の「自動更新」は無効——裁判例から学ぶ媒介契約の正しい結び方
- レインズの「登録証明書」とは?売主が必ず確認すべき物件登録状況のチェック方法
不動産コンサルタントとしての私の願いは、売主様がこうした構造を知ることで、自信を持って納得のいく取引を実現していただくことです。透明性の高いパートナーを選び、適正な価格で売却を進めてください。
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