「両手仲介」という言葉を、担当者との会話やインターネットで見かけて、気になっている方もいるかもしれません。
両手仲介の話が出たとき、売主の方からはこんな疑問を聞くことがあります。「他社のお客さんと比べて、本当に条件は良かったのか」「この選択で間違いはないのか」「なぜ他社のお客さんは、買うところまで進まないのか」。どれも、もっともな疑問です。
先に結論をお伝えします。両手仲介は違法ではありません。両手仲介になったからといって、それだけで売主が損をするわけでもありません。
売主が損をしやすいのは、次の2つの場面です。
- 両手仲介にするために、他社が連れてきた買主を断られる
- 価格交渉で、担当者が売主の側に立ってくれない
この記事では、両手仲介と片手仲介の違い、仲介手数料が2倍になる仕組み、そして売主が自分で確かめられる5つのことを、順にお伝えします。
両手仲介と片手仲介の違い
不動産を売るとき、売主は仲介会社と媒介契約を結びます。買主も、多くの場合は仲介会社を通して物件を探します。
このとき、売主側と買主側の仲介会社が同じ1社になる取引を「両手仲介」、別々の2社になる取引を「片手仲介」といいます。
呼び名は、仲介手数料を受け取る相手の数から来ています。両手仲介では、1社が売主と買主の両方から手数料を受け取ります。片手仲介では、それぞれの会社が自分の依頼者からだけ受け取ります。
| 比べるところ | 両手仲介 | 片手仲介 |
|---|---|---|
| 間に入る仲介会社 | 1社(売主側と買主側が同じ) | 2社(売主側と買主側が別) |
| 売主側の仲介会社が手数料を受け取る相手 | 売主と買主の両方 | 売主だけ |
| 価格交渉での担当者の立場 | 売主と買主の両方を担当 | 売主だけを担当(買主側は別の会社) |
なお、両手か片手かは、媒介契約の種類(専属専任・専任・一般)とは別の話です。どの契約でも、売主側の仲介会社が自社で買主を見つければ両手仲介になります。契約の種類の違いは「媒介契約の選び方」で詳しく書いています。
仲介手数料が2倍になる仕組み
仲介手数料には法律で上限があります。売買価格が400万円を超える場合、上限は「売買価格×3%+6万円」に消費税を加えた額です。決まっているのは上限だけで、この額を必ず払うという決まりではありません。
東京23区のマンションを想定して、8,000万円の例で計算してみます。
- 売主が払う仲介手数料の上限:(8,000万円×3%+6万円)+消費税=270.6万円
- 仲介会社の収入(消費税を除く):片手仲介なら246万円、買主からも受け取る両手仲介なら492万円
同じ1件の取引で、仲介会社の収入が2倍になります。両手仲介が仲介会社にとって魅力的なのは、このためです。
500万円安く売っても、仲介会社の収入は増える
ここからが、売主にとって大事なところです。8,000万円で売り出した物件に、2人の買主が現れたとします。売主から売却を任されているのは仲介会社Aです。
| 成約のしかた | 売主の手取り(税込の手数料を引いた後) | 仲介会社Aの収入(消費税を除く) |
|---|---|---|
| 他社が連れてきた買主と8,000万円で成約(片手) | 7,729.4万円 | 246万円 |
| 自社で見つけた買主と7,500万円で成約(両手) | 7,245.9万円 | 462万円 |
売主が両方の話を聞けば、8,000万円を選ぶはずです。ところが他社の買主の話が届かなければ、売主は7,500万円の話しか知らないまま契約することになります。
このとき売主の手取りは約484万円減り、仲介会社Aの収入は約216万円増えます(その他の諸費用は除いて計算しています)。売主にとって良い取引と、仲介会社にとって良い取引が、逆を向くことがある。両手仲介で「利益相反」と言われるものの中身は、これです。
値下げしても、手数料はあまり減らない
もう一つ、知っておきたい数字があります。8,000万円から300万円値下げすると、売主が受け取る代金は300万円減ります。ところが仲介会社の収入の減り方は、消費税を除いて片手仲介で9万円、両手仲介でも18万円です。
仲介会社にとっては、価格を守ることより、取引がまとまることのほうが収入への影響が大きい。これは片手仲介でも変わりません。値下げを提案されたときに根拠を確かめる理由は、ここにあります。
両手仲介にもメリットはある
ここまで読むと、両手仲介は避けるべきものに見えるかもしれません。ただ、両手仲介には売主にとってのメリットもあります。
- 窓口が1社なので、条件の調整や日程の連絡が早い
- 売主と買主、両方の事情が分かっているので、引渡しの時期などがまとまりやすいことがある
- 書類のやり取りが1社で済むので、行き違いが起きにくい
なかでも大きいのは、買主の属性を担当者が自分で確かめられていることです。勤務先や年収、自己資金、ローンの見通しまで直接把握しているので、契約から引渡しまでがスムーズに運びやすくなります。
両手仲介か片手仲介かだけで、良い取引かどうかは決まりません。大事なのは、次の2つの場面が起きていないかどうかです。
売主が損をしやすい2つの場面
1. 他社の買主を断る「囲い込み」
両手仲介にこだわるあまり、他社が連れてきた買主を断ってしまう。これが「囲い込み」です。
たとえば、他社から「この物件を紹介したい買主がいます」と問い合わせがあっても、「商談中です」と答える。レインズに登録する取引状況を、事実とは違う「売主都合で一時紹介停止中」にしておく。国土交通省も、こうした行為を囲い込みとして示しています(国土交通省のリーフレット)。
売主から見ると、本来出会えたはずの買主と出会えなくなります。売れるまでの期間が延びたり、値下げを勧められたりする原因になります。
2025年1月からは、レインズへの取引状況の登録が義務になりました。事実と異なる登録は、指示処分の対象になる可能性があります。売主が自分で取引状況を確かめる仕組みも整っています。確かめ方は、このあと説明します。
現場で見てきた限り、囲い込みが起きやすい条件には傾向があります。一つは、同じ地域に店舗が集中している会社です。裏を返せば、支店どうしの競争が激しいということです。
どの業種でもそうですが、店舗の間で売上を融通し合う仕組みにはなっていません。絶えず競わされ、ノルマも変わりません。そうなると、別の支店に対してだけでなく、同じ支店の中でも囲い込みが起きます。同僚や上司、部下に対してもです。
もう一つは物件の側です。人気のある物件、まだ新しい物件、地域のフラッグシップマンションやブランドマンションなどは、囲い込みにあいやすい物件です。買主がすぐ見つかる見込みが立つ物件ほど、自社だけで決めたい動機が強くなります。
自社で買主を見つけたい理由は、手数料だけではありません。その買主が今の家を売って住み替える「買い替え」のお客さんなら、次の売却の依頼にもつながります。1つの取引だけでなく、その先まで見据えて、できれば買い替えのお客さんを優先したい。そう考えていることもあります。
売主として避けたいのは、「買主の今の家が売れなければ買えない」という条件で話が進むことです(いわゆる買い替え特約)。
囲い込みが現場でどう見えるかは、「内覧はされるのに売れない。囲い込みが「現場」で見せる5つの兆候」と「買付証明書を受け取らない仲介会社」で詳しく書いています。
2. 価格交渉で、売主の側に立ってもらえない
両手仲介では、同じ担当者が「できるだけ高く売りたい売主」と「できるだけ安く買いたい買主」の両方を担当します。
価格交渉の場面で、担当者から「このくらいで手を打ちましょう」と勧められることがあります。それが相場から見て妥当な提案なのか、早く両手でまとめたいからなのか。売主からは見分けにくいところです。
見分ける手がかりは、提案の根拠です。近くで実際に成約した事例、ポータルサイトやレインズを通した問い合わせの数、内覧の数。これらを示して説明してくれるかどうかで判断できます。
とくに見てほしいのは、周辺や同じマンションの中での、直近の数か月から数年の取引価格です。総額ではなく、平米単価や坪単価で比べてください。そのとき、自社の事例も他社の事例も、分け隔てなく見せてもらえるか。ここに担当者の姿勢が表れます。
「この価格では売れません」と言われたときの考え方は、こちらの記事でまとめています。
売主が自分で確かめる5つのこと
囲い込みも、根拠のない値下げ提案も、売主が自分で確かめられることがあります。専属専任媒介か専任媒介で売却を任せた場合は、次の5つを順に見てください。
- レインズ登録証明書を受け取る
専属専任媒介なら5日以内、専任媒介なら7日以内(いずれも休業日を除く)に、仲介会社は物件をレインズに登録しなければなりません。登録すると、登録証明書が売主に渡されます。届かないときの対処は「レインズ登録証明書」の記事にまとめています。 - 確認画面で「取引状況」を見る
2025年1月4日以降に発行された登録証明書には、二次元コードが載っています。読み取って確認用のIDとパスワードを入れると、売主専用の画面で自分の物件の取引状況を見られます。詳しくは「レインズは一般人でも見られる?」で説明しています。 - 心当たりのない「停止中」は理由を聞く
取引状況は「公開中」「書面による購入申込みあり」「売主都合で一時紹介停止中」の3つです。申込みも停止のお願いもしていないのに「公開中」以外になっていたら、担当者に理由を聞いてください。 - 報告書に、問い合わせと内覧の数があるか見る
仲介会社には、専属専任媒介なら1週間に1回以上、専任媒介なら2週間に1回以上、売主に報告する義務があります。他社からの問い合わせ件数と内覧件数が書かれているかを見てください。報告が「活動中」の一行だけなら、「報告書は届くのに「活動中」の一行だけ」が参考になります。 - 値下げの提案には、根拠を出してもらう
成約事例と、問い合わせ・内覧の数を見せてもらいましょう。数字を見て、売主自身が判断できる状態にしておくことが大切です。
任せている仲介会社の担当者に頼めば、レインズをはじめ、広告を出しているサイトでの動きを教えてもらえます。気になる方は、ぜひ依頼してみてください。口頭で聞くだけでなく、画面のスクリーンショットをお願いしてもよいでしょう。
よくある質問
「両手仲介になりそう」と言われたら、断るべきですか?
まずは、これまでの販売活動を改めて吟味してみましょう。冒頭の3つの疑問に、担当者が報告書や取引状況の記録をもとに具体的に答えられるかが目安です。納得できない条件であれば、断ることも選択肢として持っておいてください。
担当者に「両手ですか?」と聞いてもいいですか?
聞いて構いません。角を立てずに聞くなら、「他社さんからの紹介も受けていただけますか」「レインズの取引状況は、いまどうなっていますか」という聞き方があります。
片手仲介の会社なら安心ですか?
囲い込みをする動機は小さくなります。ただ、値下げしても仲介会社の収入があまり減らないのは、片手仲介でも同じです。価格の根拠と報告の中身は、同じように確かめてください。
一般媒介にすれば、囲い込みは防げますか?
一般媒介も、選択肢としてはよいと思います。1社に囲い込まれることは起きにくくなります。
ただ、各社が契約を急ぐあまり、さまざまな情報が飛び交い、ときには事実と違う話も多く紛れ込みます。その結果、解約になってしまい、本当に検討していた買主を逃しているケースもあります。また一般媒介には、レインズへの登録義務も、売主への報告義務もありません。
ご自身が後悔しない選択をしてほしいと思います。契約ごとの義務の違いは「媒介契約3種類のレインズ義務を比較」にまとめています。
「売主の仲介手数料0円」「半額」の会社はどうですか?
実際に「囲い込みになるのか」「なぜ無料でやっていけるのか」と聞かれることがあります。正直にお答えすると、手数料の値引きは、囲い込みに近づく構造になります。売主から受け取る手数料が減る分、買主からも受け取る両手仲介で収益を確保したい動機が強くなるからです。
その点を許容できるなら、選択肢としてはありです。その場合は、上の5つの確かめ方がより大事になります。
まとめ
両手仲介は、違法でも悪でもありません。窓口が1社で済むなど、売主にとってのメリットもあります。
売主が損をしやすいのは、他社の買主を断られる「囲い込み」と、価格交渉で売主の側に立ってもらえない場面の2つです。
登録証明書と取引状況、報告書の中身、値下げの根拠。この記事で挙げた5つのことを自分の目で確かめていれば、両手か片手かに振り回されずに、売却を進められます。
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