査定は何社に頼めばいいのか。多すぎれば対応が大変になり、少なすぎれば比べる基準を持てません。
結論から言えば、3社程度が現実的です。そして数より重要なのが、どういう組み合わせで選ぶかということ。この記事では、実務の側から見た3社の選び方と、避けたほうがよい会社の見分け方を整理します。
いちばん避けてほしいのは、1社だけにすること
まず最も大切なことから書きます。1社にしか査定を頼まない、という進め方は避けてください。
理由は単純で、比べる相手がいなければ、提示された価格が高いのか安いのか、示された販売戦略が妥当なのか、売主には判断のしようがないからです。1社だけの説明は、それが唯一の現実に見えてしまいます。
また、その1社が良い会社かどうかを判断する材料も持てません。査定の場は価格を聞く場であると同時に、会社と担当者を見比べる場でもあります。比較対象がなければ、その機能が働きません。
3社の組み合わせ方
同じような会社を3社集めても意味がありません。性格の違う3社を選ぶことで、それぞれの見え方が浮かび上がります。
①大手から1社
広告力と顧客基盤があり、購入検討者を多く抱えています。相場観の基準としても有用です。
ただし注意点があります。大手を複数社集めると、提案の内容が横並びになりやすく、違いが感じにくくなることがあります。組織として標準化された営業手法をとるため、査定の進め方も説明の仕方も似通うからです。だからこそ、大手は1社にとどめて、性格の違う会社と比べる意味があります。
②地元に強いと思われる会社から1社
その地域で長く営業している会社は、大手とは違う情報を持っていることがあります。近隣で実際に動いた取引、地元の買主層の動向、その街ならではの事情。「この地域を探している人」を抱えている場合もあります。
見つけ方としては、対象エリアの物件広告に頻繁に出ている会社、地域に長く店舗を構えている会社などが目安になります。
③売り方や担当者の波長が合いそうな会社から1社
3社目は、規模や地域ではなく相性で選んでください。ウェブサイトの説明が腑に落ちた、電話の対応が丁寧だった、売却に対する考え方が自分と近いと感じた——きっかけはそれで構いません。
売却は数ヶ月にわたる付き合いになります。率直に相談できるかどうかは、実務上とても大きな要素です。
「仲介手数料が無料・割引」が意味すること
会社を選んでいると、手数料の割引や無料をうたう会社に出会うことがあります。ここは構造を理解しておいてください。
仲介手数料は、不動産会社の売上そのものです(仲介手数料の仕組み)。それを無料や割引にして事業が成り立つには、別のところで収益を得る必要があります。
- 売主・買主の双方から手数料を得る形(両手)を前提にしている——売主側を無料にしても、買主側から得られれば成立します。ただしこの形を成立させるには、買主も自社で見つける必要があり、他社の買主を歓迎しにくい構造になります(両手仲介と片手仲介の違い/囲い込みとは)
- 自社で買い取る前提である——仲介ではなく買取であれば、手数料ではなく再販の利ざやが収益になります。買取には早く確実に売れるという利点がありますが、価格は市場価格より低くなるのが通常です(不動産買取とは)
どちらも違法ではありませんし、売主にとって合理的な選択になる場面もあります。ただ、安くなる理由が必ずどこかにあるということは知っておいてください。手数料が浮いても、売却価格が下がれば手取りは減ります。
避けたほうがよい会社の見分け方
他社の悪口を言う
「すぐに電話をかけてこない会社は、やる気がない」「あの規模の会社では難しい」。他社を下げることで自社を選ばせようとする話法です。売る力のある会社は、他社の話ではなく自社の戦略を語ります。
価格の話と契約の話しか出てこない
査定額を提示して、そのまま媒介契約の説明に入る。その間に、どんな買主を想定しているのか、どう売るのかという話がない。この場合、価格の先にある道筋は示されていません。
その場での契約を強く求める
「今日決めていただければ」という進め方をされても、応じる必要はありません。媒介契約は法的な拘束力を持つ契約です(媒介契約書へのサインは「お願い」ではなく「契約」)。持ち帰って比べてから決めてください。
3社に同じ質問をする
比較を機能させるコツは、3社に同じことを聞くことです。答えの違いが、そのまま会社の違いになります。
- なぜその価格なのか——根拠となる取引事例と、その選び方(査定価格の仕組み)
- どんな買主を想定しているか——年齢層、家族構成、この物件を選ぶ理由
- どういう戦略で売るのか——どこに情報を出し、どの順番で動くのか
- 売れなかったときはどうするのか——価格の見直し時期、方針転換の考え方
高い査定額を出した会社が良い会社とは限りません(査定額が高い会社を慎重に判断すべき理由)。見るべきは価格そのものではなく、その価格に至った考え方と、売るための道筋です。
「閲覧数が多い」「興味を持っている顧客がいる」は、答えになっていない
面談でよく出てくる説明があります。自社サイトの閲覧数の多さ、そして「この物件に興味を持ちそうなお客様が、いま3件いらっしゃいます」という話です。
悪意のある話ではありません。事実を述べているのでしょう。しかし、これは会社の規模を示す情報であって、あなたの物件が売れる根拠ではありません。サイトの閲覧数が多いことと、あなたの物件を買う人が現れることは別の話です。見込み客が3件いるという説明も、その方々がどんな条件で探していて、この物件のどこが合うのかが示されなければ、確かめようがありません。
数字が大きいほど説得力があるように聞こえるだけに、かえって判断を鈍らせます。だから、こう聞いてください。
「その3件の方は、どういう条件で探されていて、この物件のどこが合うとお考えですか」
具体的に答えられるなら、実際に顔の見える見込み客がいるということです。答えが曖昧なら、それは会社の規模の話だったということになります。どちらであっても、聞けば分かります。
年齢や経験年数では判断しない
ベテランだから安心、若手だから頼りない——この見方は当てになりません。経験の浅い担当者が緻密な販売戦略を立てることもあれば、その逆もあります。
判断すべきは肩書きではなく、想定する買主像と戦略を自分の言葉で語れるか、そして率直に相談できる相手かです。
会う前に、準備しておく
3社と会う前に、売主の側で決めておくことがあります。いつまでに売りたいのか、価格と期間のどちらを優先するのか、最低限どの条件なら受けるのか。これを決めずに会うと、提案された内容が唯一の選択肢に見えてしまいます。
物件側の書類準備については問い合わせる前の完全準備ガイドに、一括査定サイトを使う場合に起きることは一括査定に申し込むと何が起きるかにまとめています。会社選びの基準そのものについては不動産会社をどう選ぶかもあわせてご覧ください。
3社と会い、同じ質問をして、答えを比べる。この手順を踏むだけで、売主は「教えてもらう側」から「選ぶ側」に変わります。

