買付証明書を受け取らない仲介会社——売主が知らない「囲い込み」のもう一つの顔【現役宅建士が解説】

売却の基礎知識

「囲い込み」とは?

「囲い込み」とは、不動産仲介会社が売主から預かった物件情報を意図的に他社へ公開せず、自社で買主も見つけて「売主・買主双方から手数料を受け取る(両手仲介)」ことを目的とした、業界の構造的な問題です。

私がこの業界に足を踏み入れて20年以上になりますが、残念ながら「買付証明書を受け取らない」という露骨な囲い込みの手口は、形を変えて今もなお存在しています。一般の方にはあまり馴染みのない「買付証明書」ですが、これは「この条件で買いたい」という意思を示す唯一無二の正式な書類です。これを受け取らない、あるいは握りつぶす行為は、売主の利益を大きく損なう背信的な行為と言わざるを得ません。

なぜ「買付証明書」を受け取らない仲介会社がいるのか?

仲介会社が買付証明書を受け取らない最大の理由は、他社からの顧客よりも自社で見つけた顧客を優先し、手数料を独占したいという「両手仲介」への執着があるからです。

不動産取引において、仲介会社が受け取る報酬(仲介手数料)は法律で上限が決まっています。売主と買主の双方から仲介手数料をもらう「両手仲介」なら、理論上は利益が2倍になります。一方で、他社が買主を見つけてきた場合、仲介会社は売主からしか手数料をもらえない「片手仲介」となります。

私の経験上、露骨なケースでは他社から「買付証明書をメールで送りたい」と伝えても、「持参するのが礼儀では?そのような無礼な申し出は売主様に対して失礼にあたるため、お断りします」「現在、社内で検討中の方がいらっしゃるので」などと言って断られることがよくあります。これは、売主にとって最も有利な条件(最高値や最速の決済)を探す機会を、仲介会社が自社の利益のために奪っている状態です。実際、売却依頼を受けた物件をレインズに登録せず、あるいは意図的に情報を制限することで、市場から「隠す」という構造的な課題が業界全体に残っています。

「囲い込み」のもう一つの顔とは何か?

囲い込みの恐ろしいところは、それが「売主のため」というもっともらしい理由にすり替えられて行われる点にあります。

「今、一番いい条件のお客様と交渉中です」「もう少し待てばもっと高値で売れる可能性があります」——こういった言葉で売主を安心させながら、実際には他社からのより良い条件の申し込みを拒絶しているケースです。売主様は「プロが言っているのだから」と疑う余地を持たないことが多い。しかし、もしあなたが9,000万円で売りに出している物件に、他社が「9,000万円で購入したい」と申し出ているのに、仲介会社がそれを握りつぶし、自社の客を待つために1ヶ月放置したとしましょう。その間に市況が悪化したり、物件が「売れ残り」の烙印を押されたりすれば、売主が負う損失は数百万円単位になることも珍しくありません。

なぜ「両手仲介」の構造が問題視されるのか?

両手仲介の構造が問題視されるのは、仲介会社の利益と売主の利益が真っ向から対立してしまうからです。

本来、仲介会社は売主の代理人として、一番高く、一番条件の良い買主を見つける義務(善良なる管理者の注意義務)があります。しかし、両手仲介を狙うと「高く売ること」よりも「自社の客でまとめること」が優先されてしまいます。私の現場経験でも、自社で買主を見つけた物件と他社経由で成約した物件とで、最終的な成約価格に数パーセントから数十パーセント程度の差が出ると感じることが少なくありません。

不動産取引は数千万円から数億円が動く巨大な市場です。たった数パーセントの差であっても、売主にとっては数十万から数百万円の損得につながります。このインセンティブ設計そのものが、公平な取引を阻害する構造的な原因となっているのです。

「囲い込み」を防ぐにはどうすればよいか?

本来、売主がここまで警戒しなければならない状況自体がおかしいのです。これは業界が抱える構造的な問題であり、売主様の落ち度では一切ありません。

私がこれまで相談を受けてきた中でも、「まさか自分が依頼した会社がそんなことを」と絶句される売主様を何人も見てきました。買付証明書が持ち込まれていたのに報告もなく、買取会社で安く売却している——そういう事例が実際に存在するのです。

不動産会社を頭から疑う必要はありません。しかし、疑う目を持つことは必要です。「まさかうちの担当に限って」という思い込みが、売主様の損失につながるのです。

だからこそ、たった2つだけ覚えておいてください。

  • 登録証明書を受け取ること: 専任・専属専任媒介契約を結んだ場合、不動産会社は法律上、レインズへの登録完了後に「登録証明書」を依頼主に交付しなければなりません。これは売主が求めるものではなく、会社側が自発的に渡すべき書類です。渡してこない、あるいは渡すのを渋る会社は、その時点で疑ってください。
  • 他社からの申し込みは即日報告させること: 媒介契約を結ぶ段階で「他社からの買付証明書を含む申し込みがあった場合は、当日中に書面で報告してください」と明確に伝えてください。これを嫌がる会社もまた、疑ってください。

登録証明書を渡してこない会社、他社からの申し込みをすぐに報告しない会社——そういう会社は、実際に存在します。この2点を契約前に確認するだけで、信頼できる会社かどうかは自然と見えてきます。ご自身の大切な資産を守るために、この2点だけは必ず押さえてください。

まとめ

  • 「買付証明書」の握りつぶしは、両手仲介による利益最大化を狙う不当な囲い込み行為である。
  • 仲介会社は「売主のため」という言葉を使いながら、自社の利益を優先した情報操作を行うことがある。
  • 囲い込みは売主の売却機会を奪い、最終的な成約価格を下げる経済的なリスクを孕んでいる。
  • 登録証明書は不動産会社が義務として交付するものであり、渡してこない会社は疑うべきである。
  • 他社からの申し込みを即日報告しない会社もまた、疑うべきである。

売主側からできる最初の一手は、レインズの登録証明書を受け取って内容を確認することです。専任・専属専任であれば、請求の有無にかかわらず交付する義務が不動産会社にあります。

この記事を書いた人

不動産業界で20年以上、今も現場に立ち続けている現役宅建士。宅建士(宅地建物取引士)は国家資格であり、重要事項の説明・契約書への記名押印は宅建士にしかできません。

不動産取引では、物件の法的・心理的な問題点や契約上のリスクを正確に把握することが非常に重要です。宅建士はそのための専門知識と法的責任を持っています。一方、宅建士が関与しない、営業が説明を行い、宅建士が重要事項説明書だけを読み上げるような取引では、重要な告知漏れや契約内容の不備が生じやすく、後からトラブルになっても法的な保護を受けにくいケースがあります。

なお、資格の名称を名乗るだけで免許を持たない悪質なケースや免許貸しのような法令順守をしていない会社もあります。会社のホームページで宅建士が在籍しているか、顔写真付きで掲示されているかなどを確認することが、ご自身と家族を守るためにも必要であると考えます。

現役宅建士
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不動産業界20年超。現役宅建士として、数百件の売買に携わってきました。

「もう少し早く知っていれば」——そんな言葉を、売主からも買主からも何度も聞いてきました。長年の経験で確信していることがあります。それは「ほんの少しの知識の差が、取引の明暗を分ける」ということ。

難しい専門知識は必要ありません。わずかなポイントを押さえるだけで、誰でも安心して納得のいく取引ができます。

売るときも買うときも、損をする人を減らしたい。その思いで、業界の内側から正直な情報を発信しています。このサイトが、あなたにとっての「気づき」と「安心」になれば嬉しいです。

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