処分された会社は、何をしていたのか。売主が自分で確認できる5つの書面【現役宅建士が解説】

契約書類を夫婦で確認する売主 売却の基礎知識

行政処分を受けた不動産会社が、実際に何をしていたのか。公表されている記録を読んでいくと、ある共通点に気づきます。

問題の多くは、売主や買主の手元に渡る書面の中で起きているということです。

公表された処分のうち、取引の場面での違反を分類すると、最も多いのが重要事項説明に関するもの、次いで媒介契約に関するものでした(処分214件の分析はこちら)。どちらも、あなたが受け取り、署名する書類です。

専門的な内容をすべて検証することはできません。しかし「書いてあるか、書いていないか」「記名があるか、ないか」なら、誰にでも確認できます。そしてそのレベルの不備が、実際に処分の理由になっています。

なぜ「書面の確認」が自衛になるのか

処分の記録を読んでいると、こういう記載に出会います。

  • 重要事項説明書に、宅地建物取引士の記名がなかった
  • 媒介契約書を交付していなかった
  • 「標準的な約款に基づく」と書きながら、実際には異なる内容が書かれていた
  • 保険に加入していないのに、加入済みと記載していた
  • 受け取った報酬が、法令の上限を超えていた

これらに共通するのは、売主・買主が書面を見れば気づける可能性があったということです。もちろん、気づかなかったことに責任があるわけではありません。責任は会社側にあります。

ただし現実には、気づけば防げたはずの損害が発生しています。そして、その損害を最後に引き受けるのは売主自身です。だから確認するのです。会社を疑うためではなく、自分と家族の資産を、自分で守るために

①媒介契約書——売却の入口で渡される

売却を依頼するときに結ぶ契約です。近年、この書面に関する違反が増えています

確認する場所

  • 契約の種類——専属専任媒介・専任媒介・一般媒介のどれか。自分が理解したものと一致しているか
  • 有効期間——専属専任媒介・専任媒介は3ヶ月が上限。それを超えていないか
  • 更新の方法——後述しますが、ここが重要です
  • レインズへの登録期限——専属専任媒介は5日以内、専任媒介は7日以内(いずれも休業日を除く)
  • 報告の頻度——専属専任媒介は1週間に1回以上、専任媒介は2週間に1回以上
  • 報酬額——いくらで、いつ支払うのか
  • 「標準媒介契約約款に基づく」の記載——記載があるなら、中身も約款どおりか

最後の項目は見落とされがちです。処分事例には、約款に基づくと表示しながら、有効期間や報酬の記載が約款と異なっていたというケースが実際にあります。

自動更新の条項は、無効です

ここは、はっきり書いておきます。

専属専任媒介契約・専任媒介契約に「期間満了までに申出がなければ自動的に更新される」という条項が入っていることがあります。この条項は無効です

宅地建物取引業法は、専任媒介契約の有効期間を3ヶ月以内と定め、更新は依頼者から申出があった場合に限るとしています(宅地建物取引業法第34条の2第3項・第4項)。そして、これらの規定に反する特約は無効とすると明記されています(同条第10項)。

ここで誤解しないでいただきたいのは、売主が承諾していても無効だということです。「依頼者の同意があるから」「説明して納得してもらったから」という理由で有効になることはありません。法律が定めた期間の規制を回避することになるからです。

ですから、契約書に自動更新の条項を見つけたら、それはその会社が法律の定めを正確に理解していないか、あるいは書式を長く見直していないというサインとして受け取ってください。詳しくは専任媒介契約の「自動更新」は無効にまとめています。

なお、一般媒介契約には期間の法定規制がありません。こちらは自動更新の条項が有効に存在し得るので、満了日の管理は自分で行う必要があります(媒介契約書へのサインは「お願い」ではなく「契約」レインズ義務の早見表)。

その場でできる質問

「この契約書は標準の約款どおりですか。違うところがあれば教えてください」

②レインズ登録証明書——登録した証拠

専属専任媒介・専任媒介では、指定流通機構(レインズ)への登録が法律上の義務です。そして登録すると証明書が発行され、依頼者に交付されます

処分事例では、この登録をしていなかった、期限を過ぎていた、というケースが繰り返し出てきます。

  • そもそも交付されたか——媒介契約から1週間程度で受け取れるはずです
  • 登録年月日——契約日から期限内か
  • 物件の内容——所在地、面積、価格が正しいか

詳しくはレインズ登録証明書とはにまとめています。渡されないまま数週間が過ぎているなら、まず確認してください

③広告・物件資料——取引態様の表示

意外に思われるかもしれませんが、広告に関する違反も多いのが実情です。特に「取引態様の明示」——その会社が売主なのか、媒介なのか、代理なのかを示す表示です。

この違反は媒介契約に関する違反と同時に問われることが多く、同じ場面で起きています

  • 取引態様の表示があるか——「媒介」「仲介」「売主」「代理」のいずれかが書かれているか
  • 自分の物件の情報が正しいか——面積、価格、設備、写真
  • 誇大な表現がないか——「駅から徒歩◯分」の計算、周辺施設の記載

売主にとって、自分の物件の広告は必ず見られるものです。掲載されている内容が事実と違えば、後で買主とのトラブルになるのは売主自身です

④重要事項説明書——最も違反が多い書面

取引の場面での違反として、最も件数が多いのがこの書面に関するものです。買主に対して説明されるものですが、売主にも関わります。記載内容の多くは、売主が提供した情報に基づくからです。

  • 宅地建物取引士の記名があるか——これは法律上必須です
  • 登記の内容が正しいか——抵当権など、権利関係の記載
  • 設備・インフラの記載——上下水道、ガスの整備状況
  • 保険や保証の記載——加入していないものが「加入済み」になっていないか
  • 供託所等の説明——保証協会に加入しているか、営業保証金を供託しているか

最後の項目は、業者そのものの信用に関わる情報です。処分事例では、保証協会の社員資格を失ったのに営業保証金を供託していなかったというケースがあります。万一のとき、取引の相手方への弁済に関わる部分です。

⑤売買契約書(37条書面)——契約の中身そのもの

契約時に交わす書面です。これにも宅地建物取引士の記名が必要で、記載しなければならない事項が法律で定められています。

  • 宅地建物取引士の記名があるか
  • 手付金の額と、解除の条件
  • 引渡しの時期
  • 契約不適合責任の範囲と期間——免責特約の内容
  • 融資が通らなかった場合の取扱い——融資特約の期限
  • 説明を受けた内容と、書面の内容が一致しているか

処分事例では、手付金の授受について事実と異なる記載をしていたケースもありました。契約書に書かれていることが、実際のやり取りと違っていないかを確認してください。

あわせて、物件状況報告書は必ず売主自身が記入してください(物件状況報告書は自分で書く)。

書面と同じくらい大切な、「誰が」の確認

ここまで書面の話をしてきましたが、その書面を作り、説明する人が誰なのかも同じくらい重要です。処分事例には、専任の宅地建物取引士を置いていない、という体制上の違反が数多く含まれています。

担当者を宅地建物取引士にしてもらう

売却の担当者が宅建士であるとは限りません。営業担当者が窓口で、契約のときだけ宅建士が登場する——という形は実際にあります。

担当を宅建士の方にしていただけますか、と依頼して構いません。応じてもらえるかどうかは会社次第ですが、聞くこと自体は自然な要望です。取引の説明を、資格と法的責任を持つ人から一貫して受けられるかどうかは、安心感が違います。

説明は、宅建士から受ける

重要事項の説明は宅地建物取引士が行うものです。営業担当者が実質的な説明をして、宅建士は書面を読み上げるだけ——という進め方が実務では見られますが、本来のあり方ではありません。

疑問があれば、説明している人に直接聞いてください。答えられない場合、その人は内容を把握していないということになります。

取引士証を見せてもらい、有効期限を確認する

重要事項の説明の前に、宅地建物取引士は取引士証を提示する義務があります。見せてもらうのは当然の権利です。

そして、そこで有効期限を見てください。取引士証には5年の有効期間があり、更新のためには法定講習を受ける必要があります。実務では、失効したまま気づいていない例が少なからずあります。日付を確認するだけなので、数秒で済みます。

従業者証明書の提示を求める

もう一つ、あまり知られていない確認方法があります。宅地建物取引業者の従業者は、取引の関係者から請求があったときは、従業者証明書を提示しなければなりません(宅地建物取引業法第48条)。

これを求める意味は、その人が本当にその会社の従業者なのかを確認できることです。実務では、外部に業務を委託していたり、別の会社の人間が同席していたりすることがあります。誰が誰なのか分からないまま話が進むのは、望ましい状態ではありません。

「従業者証明書を見せていただけますか」——これも法律上認められた請求です。処分事例には、従業者名簿を作成していなかった、というケースも含まれています。

報酬額——上限を超えていないか

書面ではありませんが、確認しておくべき数字です。処分事例には、受け取った報酬が法令の上限を超えていたというケースが含まれます。

売買の媒介報酬には法令で上限があり、売買価格に応じた計算式で決まります。仕組みは仲介手数料の仕組みにまとめています。

また、本来の報酬とは別の名目で費用を請求されていないかも確認してください。広告費や事務手数料といった名目での上乗せは、原則として認められていません。

名刺の情報は、確認の材料になりません

ここまで「宅建士かどうか」「どの会社の人か」を確認する話をしてきましたが、前提として押さえておくべきことがあります。

名刺に免許番号が書かれていても、「宅地建物取引士」という肩書きがあっても、それ自体は何の裏付けにもなりません。名刺は誰でも作れるからです。会社のウェブサイトに掲載されている情報も同じで、自分で書いたものにすぎません。

確認に使えるのは、第三者が発行した証明書と、公的なデータベースです。

公的な証明書で確認する

  • 宅地建物取引士証——都道府県知事が交付する、写真付きの証明書です。重要事項の説明前には提示義務があります。有効期限も記載されています
  • 従業者証明書——様式が省令で定められており、請求すれば提示されます(法第48条)
  • 宅地建物取引業者票(標識)——事務所ごとに掲示が義務づけられた標識です。免許証番号、免許の有効期間、代表者氏名、その事務所の専任の宅地建物取引士の氏名が記載されています

事務所を訪ねれば、標識は誰でも見られます。掲示されていない場合、それ自体が問題です

免許番号は、ネットで照合できる

そして、もっと確実な方法があります。国土交通省の「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」で、免許の情報を検索できます

建設業者・宅建業者等企業情報検索システム(国土交通省)

このシステムでは、国土交通大臣免許の業者も、都道府県知事免許の業者も検索できます。商号や免許番号から調べられるので、名刺に書かれた番号が実在するか、その会社の情報と一致するかを照合できます。

そして注目してほしいのが、確認できる項目です。2025年4月から、業者の概要に従事者および専任の宅地建物取引士の総数が、さらに事務所ごとの専任の宅地建物取引士の人数が表示されるようになりました。

これは大きな意味を持ちます。処分事例で多かったのが「事務所に専任の宅地建物取引士を置いていない」という違反でしたが、その状態を契約前に確認できる可能性があるということです。

2つのサイトを使い分ける

ただし、注意点があります。この企業情報検索システムには、処分の情報は掲載されていません。免許があるかどうかと、処分を受けたことがあるかどうかは、別のデータベースで調べる必要があります。

  • 免許の実在・専任宅建士の人数→ 建設業者・宅建業者等企業情報検索システム
  • 処分歴→ ネガティブ情報等検索サイト(調べ方はこちら

会社のウェブサイトや掲示物だけで判断せず、この2つの公的なサイトで確認してください。どちらも無料で、誰でも使えます。

会社そのものの確認——まとめ

処分の理由には、取引の中身とは別の類型もあります。事務所の所在が確認できない、役員が欠格事由に該当した、行政の立入検査に応じなかった——といったものです。

  • 免許番号を公的なシステムで照合する——名刺の記載を鵜呑みにしない
  • 専任の宅地建物取引士の人数を確認する——同システムで見られます
  • 事務所を訪ねてみる——実際に営業しているか。標識が掲示されているか
  • 取引士証・従業者証明書の提示を受ける——写真と有効期限を見る
  • 処分歴を調べる——行政処分歴の調べ方

確認して、記録に残す

確認そのものと同じくらい大切なことがあります。確認した内容は、記録に残してください

  • 受け取った書面は、控えをすべて保管する
  • 担当者への質問と回答は、メールで残す(メールで記録を残す方法
  • 電話で聞いたことは、あとでメールにまとめて送っておく

これは争うための準備ではありません。記録を取っている売主に対して、雑な対応はされにくくなります。予防としての効果のほうが大きいのです。

まとめ——確認できることは、確認する

処分事例を読んで分かるのは、問題の多くが特別な手口ではなく、書面や体制の基本的な不備だということです。記名がない、記載がない、事実と違う、資格者がいない。

専門家でなければ判断できない部分は確かにあります。しかし、次のことなら誰にでもできます。

  • 媒介契約書に、契約の種類・期間・報告頻度が書かれているか
  • 自動更新の条項が入っていないか(専任系なら無効です)
  • レインズの登録証明書を受け取ったか
  • 重要事項説明書に、宅地建物取引士の記名があるか
  • 説明する人が宅建士か。取引士証は有効期限内か
  • 契約書の内容が、説明された内容と一致しているか
  • 免許番号と専任宅建士の人数を、公的なシステムで照合したか

そして処分事例の多くは、このどこかで起きています

会社選びの段階での見極め方は査定は何社に頼むべきか、売却を考え始めた段階の準備は問い合わせる前の完全準備ガイド、内覧の場面で見える兆候は内覧はされるのに売れない、買付が入った後の確認は買付証明書を受け取ったらにまとめています。

守るのは、自分と家族の資産です

最後に、なぜここまで確認するのかを書いておきます。

不動産の売却は、多くの人にとって人生で最も大きな金額が動く取引です。そして取引が終わったあと、その結果を引き受けて生きていくのは、売主と、その家族です。

担当者は次の案件に移ります。会社は取引が終われば関係が切れます。数年後に問題が起きたとき、対応することになるのはあなた自身です。

だから確認するのです。相手を疑うためではありません。自分と家族が、あとで困らないようにするためです

時間にすれば、書面1通あたり数分です。記名があるか、記載があるか、説明された内容と一致しているか——それだけを見る。その数分が、その後の数年を左右することがあります

渡された書面を、一度だけ丁寧に読んでください。

※ 本記事で触れた処分の傾向は、国土交通省ネガティブ情報等検索サイトの公表情報をもとに当サイトが集計したものです。詳細は行政処分214件の分析をご覧ください。個別の案件については、弁護士や行政の相談窓口にご相談ください。

この記事を書いた人

不動産業界で20年以上、今も現場に立ち続けている現役宅建士。宅建士(宅地建物取引士)は国家資格であり、重要事項の説明・契約書への記名押印は宅建士にしかできません。

不動産取引では、物件の法的・心理的な問題点や契約上のリスクを正確に把握することが非常に重要です。宅建士はそのための専門知識と法的責任を持っています。一方、宅建士が関与しない、営業が説明を行い、宅建士が重要事項説明書だけを読み上げるような取引では、重要な告知漏れや契約内容の不備が生じやすく、後からトラブルになっても法的な保護を受けにくいケースがあります。

なお、資格の名称を名乗るだけで免許を持たない悪質なケースや免許貸しのような法令順守をしていない会社もあります。会社のホームページで宅建士が在籍しているか、顔写真付きで掲示されているかなどを確認することが、ご自身と家族を守るためにも必要であると考えます。

現役宅建士
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不動産業界20年超。現役宅建士として、数百件の売買に携わってきました。

「もう少し早く知っていれば」——そんな言葉を、売主からも買主からも何度も聞いてきました。長年の経験で確信していることがあります。それは「ほんの少しの知識の差が、取引の明暗を分ける」ということ。

難しい専門知識は必要ありません。わずかなポイントを押さえるだけで、誰でも安心して納得のいく取引ができます。

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