不動産の記事を書いている者が、なぜ不用品の買取の話をするのか。先に理由を書きます。
本来なら売る必要のなかった家が、望まないタイミングで、望まない価格で手放されることがあるからです。そのきっかけが、家に人を入れたことだった——という経緯を、実務の中で見聞きしてきました。
この記事の主題は防犯ではありません。家という資産をどう守るかという話です。ただ、結論はいつもより単純です。
不用品や貴金属の買取業者を、家に呼ばないでください。持ち込んでください。
面倒くさくても。時間がなくても。荷物が多くても。遠方に住んでいても。それでも、呼ばないでほしいのです。
玄関を開けるとき、何を渡しているのか
少しだけ、想像してみてください。
いま、あなたの家のどこに何があるか。通帳はどこにしまっていますか。印鑑は。貴金属は。仏壇の引き出しには何が入っていますか。金庫があるなら、その場所は。
家の造りはどうでしょうか。どの窓が道路から見えないか。裏口はあるか。近所に人通りはあるか。夜、家に誰がいて、誰がいないか。
訪問買取で家に人を入れるということは、これらを初めて会った人に案内するということです。査定のために部屋を回り、収納を開け、どこに何があるかを見せることになります。
本人にその意識はありません。片づけたい物を見てもらっているだけのつもりです。しかし結果として渡している情報は、それだけではありません。
見られているのは、置いてある物だけではありません
家に上がった人が数分で把握できることを、挙げてみます。
- 窓の種類——防犯ガラスか、普通のガラスか。補助錠はあるか。格子はついているか
- 防犯カメラ——あるか、ないか。何台あるか。どこを向いているか。本物かダミーか
- センサーライトの有無——どの範囲を検知するか
- 現金や貴重品がありそうな家か——家具、調度品、生活の様子から推測できます
- 入りやすいか、逃げやすいか——道路との位置関係、隣家との距離、人通り
- ペットがいるか——犬か猫か。犬なら、番犬になる大きさか
最後の項目に驚かれるかもしれません。飼い主にとって犬や猫は家族です。しかしそういう目で見られることがあるという事実は、知っておいてよいと思います。
そして重要なのは、これらのどれも、査定には必要のない情報だということです。不用品の価値を判断するために、窓の種類を知る必要はありません。それでも、家に上がれば自然と目に入ります。
相手を確認する手段が、ほとんどありません
不動産会社と比べると、この違いがはっきりします。
宅地建物取引業者の従業者には、取引の関係者から請求があったときに従業者証明書を提示する義務があります(宅地建物取引業法第48条)。その人が本当にその会社の人間なのか、書面で確認できます。
一方、不用品や貴金属の買取を行う事業者には、これに相当する個人単位の携帯義務がありません。古物営業の許可は事業者に対して与えられるもので、訪問してきた個人がその会社の従業者であることを、その場で確認する仕組みが整っていません。
そして名刺は誰でも作れます。会社名も、電話番号も、肩書きも、印刷すればそれらしく見えます。
近年、この種の買取事業者は数を増やしました。参入の障壁が低く、事業者ごとの質を消費者が事前に見分ける手立てが、ほとんどありません。大半は真面目に営業しているはずです。しかし、その中から見分けられないという状態こそが問題なのです。
渡した情報は、消えません
ここが、この記事で最も伝えたいことです。
物を売らなかったとしても、見せた情報は相手の中に残ります。断ったから安心、ということにはなりません。
デジタルタトゥーに近いものだと考えてください
ネットに一度出た情報は消せない、と言われます。訪問買取で渡した家の情報も、性質としては同じです。
どこに何があるか。誰が住んでいるか。いつ留守になるか。これらは、一度伝われば回収できません。「あのときの業者に連絡して削除してもらう」ということが、できない性質のものです。
そして、家の情報はネット上の書き込みより厄介な面があります。内容が古くならないからです。
住所は変わりません。間取りも、どの窓が死角になるかも、何年経っても同じです。5年前に渡した情報が、今日そのまま使えます。人が引っ越さない限り、価値が落ちません。
情報というものは、価値があれば動きます。どこかに記録され、どこかに渡り、どこかで使われる——その経路を、渡した側は追跡できません。
鍵を替えても、防犯設備を付けても、すでに渡った情報そのものは消せません。だから最終的に転居を選ぶ方がいます。逃げるためではなく、情報を無効にする方法が、それしかないからです。
そして、家の価値が壊れます
ここからが、不動産の専門家として伝えたい部分です。
仮に、その家で何らかの事件が起きたとします。被害は、盗まれた物の金額では終わりません。むしろ、その後に起きることのほうが、金額としては大きくなります。
連鎖は、こう進みます
①事件が起きる
②警察の捜査が入る——現場検証が行われ、近隣への聞き込みがあります。
③近隣が知る——聞き込みが行われれば、周囲は何が起きたかを知ります。地域の中で、情報は伝わります。
④物件の評価に影響する——事件があった住宅について、買主が心理的な抵抗を感じることがあります。売却の場面では、事案の内容によって買主に告知すべき事項となる可能性があります。伏せて売れば、後から契約不適合の問題になりかねません(物件状況報告書は自分で書く)。
⑤一般の買主が敬遠する——マイホームとして検討する層は、こうした事情のある物件を避ける傾向があります。内覧の申込みすら入らなくなることがあります。
⑥仲介では売れなくなる——買主が現れなければ、通常の売却は成立しません。
⑦買取に頼るしかなくなる——不動産会社による買取は、仲介より価格が下がるのが通常です(不動産買取とは)。
⑧通常の買取価格にも、なりません——買い取る側は、そのまま再販できないリスクを負います。告知が必要になる可能性、買主が限られること、販売期間が長引くこと。これらを織り込んだ価格になります。通常の買取相場より、さらに低い水準です。
失われるものを、並べてみます
- 盗まれた財産
- その家に住み続けるという選択肢
- 転居の費用——引越し、新しい住まいの初期費用。誰も補償してくれません
- 望まないタイミングでの売却——急げば、価格の交渉力は下がります(売却価格はどう決まるのか)
- 資産としての価値——本来の相場では売れなくなります
- 安心して眠れる場所——これは金額に換算されません
金額として最も大きいのは、たいてい下の3つです。しかし被害として数えられるのは、いちばん上の1つだけです。
釣り合っていますか
ここで、率直に問いたいことがあります。
訪問買取で手に入る金額は、いくらでしょうか。数千円かもしれません。数万円かもしれません。まとまったものでも、多くは数十万円の範囲です。
その一方で、渡しているのは家の中の情報と、その後の安心と、資産としての家そのものです。
釣り合っていません。
何事もなければ、便利な仕組みです。それは事実です。しかし何かあったときに失うものが、得られる金額と桁が違いすぎます。この非対称を、一度だけ考えてみてください。
持ち込む方法は、あります
「呼ぶな」と言うだけでは、行き場がありません。持ち込めない事情がある方もいます。だから、代わりの方法を挙げます。
①店舗に持ち込む
最も確実です。相手の店舗を見られますし、こちらの家の情報は渡りません。断って帰ることもできます。自宅では、帰ってもらうほうが難しいのです。
②宅配買取を使う
箱に詰めて送る形式です。家に人は来ません。査定額に納得できなければ返送してもらえる事業者が多くあります。足が悪い方、遠方の方には、これが現実的な選択肢です。
③家族・知人に運んでもらう
自分で持ち込めないなら、運べる人に頼む。手間をかけるだけの理由があります。
④自治体の回収を使う
売ることにこだわらなければ、粗大ごみの回収や、自治体のリサイクル制度があります。数千円で売るために家に人を入れるより、費用を払って処分するほうが安全なこともあります。
⑤遺品整理は、信頼できる紹介から
量が多く、どうしても自宅での作業が必要な場合。広告や飛び込みの電話ではなく、信頼できる人からの紹介で選んでください。作業中は必ず立ち会い、可能なら複数人で。
空き家の片づけについては親の家を空き家のまま放置するとどうなるか、相続した家の売却手順はこちらにまとめています。
それでも自宅で対応する場合の、具体的な守り方
事情があってどうしても、という場合に。ここは具体的に書きます。
場所——家に上げない
- 見せる物は、あらかじめ玄関にまとめておく。「これだけです」と言える状態にしてから呼ぶ
- 可能なら屋外で対応する——駐車場、庭先、離れ。玄関の外で完結すれば、それが最も安全です
- 間取りを見せない——廊下の奥、部屋の中、階段の上。玄関から見える範囲も意識してください
- 貴金属や現金を保管している場所には、近づけない。その部屋の前を通ることも避けます
- 寝室、書斎、仏壇、金庫、収納の奥は見せない
会話——想像できる材料を与えない
ここが最も見落とされます。雑談に見える会話が、情報収集になり得ます。
- 「どちらに保管されていたんですか」——答えません。さりげない質問ほど注意します
- 「他にもお持ちではないですか」——答えません
- 家族構成——何人で住んでいるか、一人暮らしか
- 家族の勤務先、共働きかどうか
- 家を出る時間、帰る時間——「日中はお留守ですか」も同じです
- なぜ処分するのか、なぜ売るのか
相手が生活を想像できる情報は、一切与えないでください。「それはお答えできません」で構いません。愛想よく答える必要はありません。
記録——録画・録音をする
やり取りを録画または録音してください。スマートフォンをテーブルに置いておくだけでも構いません。
相手は嫌がるかもしれません。それでいいのです。嫌がる相手なら、なおさら必要だということになります。真面目に営業している事業者であれば、記録を取られて困ることはありません。
使わなくなったスマートフォンが、そのまま使えます
費用をかける必要はありません。機種変更して引き出しに眠っているスマートフォンがあれば、それで足ります。
充電して、カメラを起動するか録画アプリを入れて、玄関やリビングに置いておくだけです。回線契約がなくても、カメラは動きます。
そして、置いてあることが分かる状態にしておいてください。隠し撮りをしたいわけではありません。「記録されている」と伝わること自体に意味があります。見られていると分かる場所では、人の行動は変わります。
あわせて、名刺を保管し、来訪の日時を控えてください。何もなければ使いません。しかし何かあったとき、それが唯一の手がかりになります。
人数——一人で対応しない
家族や知人に必ず同席してもらってください。人数がいるだけで、状況は変わります。
判断——その場で決めない
「今日だけ」「まとめてなら」と急がされることがあります。急がせる理由は、相手の側にあります。
なお、訪問購入には特定商取引法によるルールがあり、書面の交付やクーリング・オフの制度が定められています。契約してしまった後でも、一定の期間内なら解除できる場合があります。困ったときは消費生活センター(消費者ホットライン188)に相談してください。
すでに呼んでしまった方へ
ここまで読んで、不安になった方もいるかもしれません。過去に業者を家に入れたことがある、という方です。
正直に書きます。渡した情報は取り戻せません。それは事実です。
しかし、できることはあります。過去は変えられませんが、これから先の条件は変えられます。
いまからできること
- 保管場所を変える——見せた場所、話した場所に置いたままにしない。これは今日できます
- 鍵を交換する——見られた鍵、合鍵の所在を確認する
- 防犯設備を検討する——センサーライト、防犯カメラ、窓の補助錠。「見られている」と分かる状態を作ることに意味があります。使わなくなったスマートフォンをカメラとして玄関に置くだけでも、何もないよりは違います
- 家族と共有する——一人で抱えないでください。誰が来たか、何を見せたかを家族に話しておく
- 不審な連絡を記録する——「以前ご対応させていただいた」という電話や訪問があれば、日時と内容を控える
- 不安があれば警察に相談する——事件が起きていなくても相談できます。地域の警察署や、警察相談専用電話(#9110)があります
そして、次に同じことをしないという判断ができます。それが最も大きい変化です。
すでに渡してしまった情報について悩み続けるより、これから渡さないという選択のほうが、確実に効果があります。
空き家では、条件が重なります
相続した実家を片づける場面は、特に注意が必要です。
- 普段は誰も住んでいない
- 片づけを急いでいる
- 相続人が遠方に住んでいる
- 家の中に何があるか、相続人自身も把握していない
この状態で「まとめて引き取ります」と言われれば、任せたくなるのは自然です。しかし誰も住んでいない家は、状況が伝わったときのリスクが高くなります。そして、その家は将来売却する資産でもあります。
コントロールできるのは、これからだけです
最後に、この記事を書いた理由をもう一度書きます。
家を売る理由は、人それぞれです。住み替え、相続、離婚、資金の必要。そのどれもが、本人の選択によるものです。
しかし本来なら売らなくてよかった家を、望まないタイミングで、望まない価格で手放すことになった——そういう場面があります。
起きてしまったことは、取り返せません。渡した情報は戻らず、失われた安心も戻りません。
ただ、これから先のことは、自分で決められます。玄関を開けるかどうかも、持ち込むという選択をするかどうかも。
数千円、数万円のために、玄関を開ける必要はありません。持ち込んでください。
手間はかかります。運ぶのは面倒ですし、店舗まで行くのも億劫です。家族に頼むのも気が引けるかもしれません。正直に言って、めんどくさいと思います。
それでも、そのめんどくささが、あなたと家族を守ります。比べているものが違うのです。
不動産会社を家に呼ぶ場面での確認方法は売主が自分で確認できる5つの書面、売却を考え始めた段階の準備は問い合わせる前の完全準備ガイドにまとめています。
※ 本記事は特定の事業者や事案について述べたものではありません。訪問購入に関する制度や相談窓口の詳細は、消費者庁および国民生活センターの案内をご確認ください。防犯に関する不安がある場合は、お住まいの地域の警察署にご相談ください。

