媒介契約書をまだ渡されていない。それは交付義務違反にあたるのか【現役宅建士が解説】

書類の入っていない空の書類ファイルと売却の準備 売却の基礎知識

不動産会社に売却を依頼した。査定も受けたし、担当者とも話は進んでいる。写真も撮ってもらった。

ところが、媒介契約書が手元にありません。

「あとでお持ちします」と言われたまま数週間が経った。あるいは、そもそも書面の話が出ていない。これは、通常ではありません。 この記事では、何が定められていて、どう確認すればいいのかを整理します。

交付は「遅滞なく」と定められています

宅地建物取引業法の条文です。

(媒介契約)
第三十四条の二 宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買又は交換の媒介の契約(中略)を締結したときは、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した書面を作成して記名押印し、依頼者にこれを交付しなければならない。

読みどころは3つあります。

  • 遅滞なく——「そのうち」ではありません
  • 記名押印し——会社として責任を示す形式が要ります
  • 交付しなければならない——依頼者が求めるかどうかに関係なく、渡す義務です

書面に何を書くかも、同じ条項に列挙されています。物件の表示、売買すべき価額、他社への重ねての依頼の可否、建物状況調査のあっせん、有効期間と解除、レインズへの登録、報酬。売却の条件そのものです。

なお、紙でなければならないわけではありません。第11項で、依頼者の承諾を得れば電磁的方法で提供できると定められています。PDFがメールで届いていれば、それは交付されたことになります。手元を探してみてください。

「交付義務違反」とは何か

渡されないままであれば、それは第34条の2第1項に反する状態です。宅地建物取引業法上、指示処分や業務停止処分の対象になります。

実際に処分されています。国土交通省と各都道府県が公表している行政処分の記録を当サイトで分類したところ、272件のうち第34条の2第1項を理由に挙げているものが19件(7.0%)ありました。

公表された処分理由から、実際に起きていたことを挙げます(会社名は伏せます)。

  • 媒介の依頼を受けて承諾し、媒介活動に着手していたにもかかわらず、依頼者に媒介契約書を交付しなかった
  • 複数の土地売買契約の媒介において、媒介契約書を交付しなかった
  • 媒介業務を行ったにもかかわらず、買主に対して媒介契約書の交付を行わなかった

「1件だけうっかり」ではなく、複数件にわたっていた例が含まれています。

なぜ、これが重いシグナルなのか

ここは、はっきり書いておきます。

媒介契約書の交付は、媒介契約について定めた条文の、いちばん最初に置かれている義務です。物件が複雑かどうかも、担当者の経験年数も、取引の難易度も関係がありません。売却を引き受けたなら、必ず発生する手続きです。

それが行われていないということは、他の手続きも同じ水準である可能性を示します。同じ条文の中には、レインズへの登録義務も、業務処理状況の報告義務も、登録証明書の引渡し義務も入っています。最初の一つが抜けている状態で、後ろだけが守られていると考える理由はありません。

会社を疑ってくださいという話ではありません。ここは、他がどうなっているかを確かめる入口になるということです。

「まだ契約していないので」と言われた場合

もう一つのかたちがあります。媒介契約を結ばないまま、販売活動だけが進んでいるケースです。

「まずは反響を見てみましょう」「正式な契約はもう少し様子を見てから」。売主の側からは、拘束されなくて気楽に感じられるかもしれません。

ただ、媒介契約がなければ、会社の義務も発生しません。

  • レインズへの登録義務(第5項)——専任系の媒介契約を結んで初めて発生します
  • 登録証明書の引渡し義務(第6項)——同上
  • 業務処理状況の報告義務(第9項)——同上
  • 申込みがあったときの報告義務(第8項)——媒介契約を締結した業者の義務です

つまり「結んでいないから自由」なのは、売主ではなく会社の側です。売主は、守られる立場を持たないまま物件情報だけを預けていることになります。

媒介契約の3種類で義務がどう違うかは、早見表の記事にまとめています。

確認と、求め方

まず手元を確認してください。

  1. 媒介契約を結んだ日付はいつか(結んでいないなら、そもそもそこから)
  2. 紙またはPDFで書面を受け取っているか(メールの添付を見落としていることがあります)
  3. 受け取っているなら、記名押印があるか

渡されていなければ、求めます。強く出る必要はありません。事実を並べるだけで足ります。

「◯月◯日に媒介をお願いしましたが、媒介契約書をまだ受け取っていません。宅地建物取引業法第34条の2第1項で遅滞なく交付することとされていますので、ご対応をお願いします」。これで十分です。

そして、電話ではなく、LINEやSMSでもなく、メールで求めてください。 口頭では「渡したはずです」と食い違ったときに確かめようがありません。LINEやSMSは、相手が消せば消えます。端末を変えれば残らないこともある。メールなら日付とともに双方の手元に残ります。

LINEが記録として弱い理由はこちらの記事で、記録の残し方は別の記事で書いています。

受け取ったら、中身も見ておく

交付されたら、それで終わりではありません。

とくに自動更新の条項には注意が要ります。専属専任媒介契約・専任媒介契約の有効期間は3か月が上限で、更新は依頼者の申出によるものと定められており、これに反する特約は無効です。自動更新の記事で詳しく書いています。

受け取った媒介契約書のどこを見ればいいかは、5つの書面をまとめた記事に一覧があります。

それでも渡されない場合

書面で求めても出てこないなら、次の段階があります。

不動産会社の免許を出しているのは、都道府県知事または国土交通大臣です。交付義務違反は、その免許権者が扱う話になります。実際に、これで指示処分や業務停止処分を受けた会社があります。

相談先の調べ方と、実際の相談の仕方はこちらの記事にまとめています。

まとめ

  • 媒介契約書の交付は「遅滞なく」の義務。依頼者が求めるかどうかに関係ない(第34条の2第1項)
  • PDFでの提供も可(第11項)。メールの添付を見落としていないか、まず手元を確認する
  • 渡されないままなら交付義務違反。実際に処分事例があり、公表272件のうち19件(7.0%)がこれを理由に挙げている
  • これは条文のいちばん最初の義務。抜けているなら、他の手続きも確かめる入口になる
  • 「まだ契約していない」状態では、会社に義務が発生しません。自由なのは売主ではなく会社のほう
  • 求めるときは条文を挙げて、メールで

媒介契約書は、売主が読むための書面です。会社の記録のためではなく、依頼した内容を確認するために渡されます。

手元にないなら、まず探してみてください。それでも見つからなければ、聞いていい。遠慮する理由は、売主の側にはありません。

この記事を書いた人

不動産業界で20年以上、今も現場に立ち続けている現役宅建士。宅建士(宅地建物取引士)は国家資格であり、重要事項の説明・契約書への記名押印は宅建士にしかできません。

不動産取引では、物件の法的・心理的な問題点や契約上のリスクを正確に把握することが非常に重要です。宅建士はそのための専門知識と法的責任を持っています。一方、宅建士が関与しない、営業が説明を行い、宅建士が重要事項説明書だけを読み上げるような取引では、重要な告知漏れや契約内容の不備が生じやすく、後からトラブルになっても法的な保護を受けにくいケースがあります。

なお、資格の名称を名乗るだけで免許を持たない悪質なケースや免許貸しのような法令順守をしていない会社もあります。会社のホームページで宅建士が在籍しているか、顔写真付きで掲示されているかなどを確認することが、ご自身と家族を守るためにも必要であると考えます。

現役宅建士
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不動産業界20年超。現役宅建士として、数百件の売買に携わってきました。

「もう少し早く知っていれば」——そんな言葉を、売主からも買主からも何度も聞いてきました。長年の経験で確信していることがあります。それは「ほんの少しの知識の差が、取引の明暗を分ける」ということ。

難しい専門知識は必要ありません。わずかなポイントを押さえるだけで、誰でも安心して納得のいく取引ができます。

売るときも買うときも、損をする人を減らしたい。その思いで、業界の内側から正直な情報を発信しています。このサイトが、あなたにとっての「気づき」と「安心」になれば嬉しいです。

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