「レインズに登録しました」——媒介契約のあと、担当者からそう報告を受けます。多くの売主はここで「全国の不動産会社に情報が行き渡ったんだな」と理解します。
半分正解です。ただ、実務の現場から見えている風景はもう少し広い。レインズ登録は、実質的には世界への公開です。そして、その意味を理解すると、「どの不動産会社に任せるべきか」の基準が変わってきます。
レインズ登録は、実質「世界への公開」である
レインズを閲覧できるのは宅地建物取引業の免許を持つ事業者ですが、この免許に国籍の要件はありません。日本で免許を取得していれば、海外にルーツを持つ事業者も同じようにレインズを検索し、抱えている買主に物件を紹介できます。
実務の現場での印象を正直に書くと、台湾・香港系、韓国系の事業者や投資家の存在感は年々増しています。地理的に近く、円安と価格水準の割安感が、そのまま購入行動につながりやすい。加えて、接した方からよく聞くのが「所有権」の存在です。たとえば中国では土地は国家等の所有で、個人が持てるのは期限付きの使用権にとどまります。期限なく所有でき、登記で守られ、相続もできる日本の所有権は、それ自体が母国にない資産なのです。しかも日本では、外国人や外国法人による不動産の取得に、原則として制限がありません。多くの国が外国人の取得に許可や制限を設けているなかで、これは世界的に見ても開かれた制度です。一方、欧米の方は日本の不動産が割安であることを知りつつ、国際情勢を見ながら慎重に構えている印象です。それでも裾野は確実に広がっています。
つまり、あなたの物件は登録された瞬間から、国境を越えた買主候補の目に触れうる状態になります。レインズは「日本の不動産会社の掲示板」ではなく、世界の買主につながる入口なのです。
都心部の買主は、9割が「縁もゆかりもない人」
もうひとつ、実務の肌感を正直に書きます。都心部の売買では、買主がその街に縁やゆかりを持っているケースは、いまや少数派です。私の経験では、9割方は「その街に縁のなかった方」。住みたい街を先に決めるのではなく、予算・広さ・駅距離といった条件で検索し、条件が合った物件のある街に来るのです。
この事実は、売主の会社選びの常識をひとつ崩します。「地元の不動産会社だから地域に強い」——買主が地縁で来ないのなら、この強みは思うほど機能しません。地域の事情に詳しいことより、物件の情報を正確に把握し、条件検索の網に引っかかる形で的確に発信できることのほうが、はるかに成約を左右します。
それに、正直なところ、買った後まで不動産会社と付き合いたい買主は多くありません。「近所だからアフターも安心」という営業文句が響く時代でもないのです。
買主に届くまでの実際の流れ
では、登録後の裏側では何が動いているのか。標準的な流れはこうです。
- 買主を抱える客付け会社が、条件を入力してレインズを検索する
- 条件に合う物件を見つけると、元付会社に問い合わせ、資料を請求する
- 図面・写真を確認し、自社の顧客に紹介する
- 買主が興味を持てば、元付経由で内覧の調整に入る
ここで決定的なのは、図面と写真が揃っている物件から順に紹介されるという現実です。客付けの担当者は日々大量の物件を見ています。資料が不足している物件は、内容を確かめる手間の時点で後回しになります(詳しくは図面が登録されていない物件で解説しています)。
「取引状況」はこう動く
レインズ上の物件には「取引状況」という欄があり、通常は次のように動きます。
- 公開中:他社からの問い合わせを受け付けている状態。売出し中はここにあるのが正常です
- 書面による購入申込みあり:書面での申込みを受けた状態。補足欄に書面の受領日が記載されます
- 成約:契約に至れば成約報告が行われ、情報は市場から下がります
「売主都合で一時紹介停止中」という区分もありますが、これは本来、売主の事情(親族と調整中など)で一時的に紹介を止めるためのもの。売主が了解した日を補足欄に記載することになっています。身に覚えのない停止は正常ではありません。なお、状況変更が画面に反映されるまで2日程度かかることがあります(確認方法の詳細はレインズの登録証明書で解説しています)。
差がつくのは「情報の質」——チラシではなく
ここまでの流れを踏まえると、売却の成否を分けるものが見えてきます。
同じマンションの棟内に競合する売出しがある。近隣に似た条件の一戸建てがある。そのとき買主側の会社が比較しているのは、チラシの枚数でも店舗の近さでもなく、レインズ上の情報の充実度です。図面は揃っているか、写真は載っているか、条件は正確か。ここで劣る物件は、検討の土俵に上がる前に落ちていきます。
旧来のチラシ投函に頼る営業と、レインズへの的確な情報登録で世界中の買主候補に届ける営業。どちらがあなたの物件を高く早く売るかは、もう明らかだと思います。求められているのは、物件の情報を正確に把握し、それを的確に伝達する能力です。
ただし、この「登録の質」は、放っておけば充実するものではありません。元付会社には登録を薄くする動機が構造的に存在するからです(その理由はなぜ不動産会社はレインズに登録したがらないのかで詳しく解説しています)。
だからこそ、売主自身の確認が効きます。登録証明書を受け取り、売却依頼主用の確認画面で図面・写真・取引状況を自分の目で見る。反響の状況と合わせて、2週間問い合わせがなければ登録内容を疑ってみる。それだけで、あなたの物件が世界の買主候補に届いているかどうかを、自分で確かめられるのです。
公開されていても、届かないことがあります
ここまで書いたとおり、買主側の会社は図面や写真の揃った物件から順に紹介します。
だからこそ、図面が登録されていない状態は、公開されているのに届かない、という形を生みます。世界に公開されていても、選ばれる列に並べていないことになります。
あわせて、ポータルサイトへの掲載とレインズへの登録は別のものだという点も確かめてください。片方だけを見て安心してしまう方が少なくありません。
まとめ
- レインズ登録は実質的に世界への公開です。宅建業免許に国籍要件はなく、海外の事業者・投資家も同じ情報を見ています。
- 都心部の買主の大半は、その街に縁のなかった人です。「地元だから強い」は思うほど機能しません。
- 買主側の会社は、図面・写真の揃った物件から順に紹介します。差がつくのは情報の質です。
- 取引状況は「公開中→申込みあり→成約」と動くのが正常。身に覚えのない紹介停止は確認が必要です。
- 登録の質は放置では上がりません。証明書と確認画面で、売主自身の目でチェックしてください。

