「この価格では売れません」と言われた。買取に切り替える前に確認すること【現役宅建士が解説】

手元の資料を前に、売却の判断を考えている人 売却の基礎知識

売り出してしばらく経ったころ、担当者からこう言われることがあります。

「この価格では、正直きびしいですね」「買取という方法もありますが、どうされますか」

売れない状態が続いていれば、その提案に乗りたくなります。ただ、買取に切り替える前に、確認しておくことがあります。 この記事では、その手順と、そもそもなぜこういう状況が生まれるのかを整理します。

なお、この記事は戸建てと土地を想定して書いています。マンションの場合は、確認する相手も内容も変わります(管理組合、修繕積立金の状況、同じ建物内で売りに出ている他の住戸など)。そちらは別に整理します。

「売れない」は結果であって、原因ではありません

「この価格では売れない」という言葉は、状況の説明としては何も言っていません。なぜ売れないのかが抜けているからです。

価格が高いのか。物件に何か要因があるのか。販売の仕方に問題があるのか。それとも市場のほうが動いていないのか。原因によって、打つ手はまったく違います。

そして原因が特定されないまま価格を下げても、下げ幅が足りなければまた同じ話になります。買取に切り替えれば話は終わりますが、それは原因を解決したのではなく、解決しないまま出口を変えたということです。

なぜ「後から」出てくるのか——調査のタイミングの話

ここは、多くの売主が知らないまま進んでしまう部分です。

まず前提として、机上の査定価格をベースに売り出すことは、珍しくありません。 周辺の環境要因は多少組み込みますが、訪問して調査したからといって価格が大きくぶれるものではないからです。ここを責めても、あまり意味がありません。

問題は、本格的な調査が、いつ行われるかです。

媒介契約の前は、調査が進みにくい

役所や法務局で物件を調べるには、売主からの委任が必要になる場面があります。媒介契約を結ぶ前でも、委任状を渡せば調査は可能です。 制度上できないわけではありません。

ただ、実際にそこまでやるかどうかは会社によります。

  • 不動産会社の側:調査には時間と費用がかかりますが、調査したからといって媒介契約を結んでもらえるとは限りません
  • 売主の側:まだ依頼すると決めていない会社に委任状を渡すことになります

この2つが重なるため、実務では調査が媒介契約の後、つまり販売を開始してからになることが多くなります。

担当者が調査に慣れているとは限りません

もう一つ、知っておいたほうがいいことがあります。

重要事項説明のための調査は、外部への委託でも成立します。そのため、担当者自身が役所や現地を見ないまま書面ができあがることがあります。 委任状を渡したとしても、調べる知識と経験がなければ、出てくるものは変わりません。

これは担当者を責める話ではありません。ただ、「調査を先にお願いできますか」と言ったときの反応で、その会社がどこまでやる会社なのかが見えるということです。

手元の資料は「答え」ではなく「手がかり」です

では、売主が自分の手元の資料を見れば済むかというと、そう単純でもありません。

購入したときの重要事項説明書、売買契約書、測量図、建築確認の書類。これらを読み直すと、当時すでに指摘されていた事項が見つかることがあります。ここは出発点として役に立ちます。

購入時は買うことに気持ちが向いていて、説明を受けたはずのことも頭に残っていないものです。売る側に回って読み直すと、意味が変わって見えます。

ただし、そこに書かれていることを、そのまま信じるのは危険です。 理由が2つあります。

ひとつは、記載そのものが十分でないことがあることです。簡略に書かれていたり、確認が甘いまま作られていたりする。当時それで取引が成立していても、いま同じ精度で通用するとは限りません。

分かりやすい目安があります。重要事項説明書の厚さです。

数十年前のものは、数ページで収まっていることがあります。いまは20ページ近くになることも珍しくありません。 増えた背景には、取引で起きたトラブルへの対応や、新しい法令が加わったことなど、いくつもの要因があります。

手元の重要事項説明書を開いて、薄い。それは当時の基準では足りていたということであり、同時にいまなら説明されるはずのことが、そこに書かれていない可能性がある、ということです。厚ければ厚いで、当時どこまで確認されていたかを読み取る材料になります。

もうひとつが大きい。当時の法令と、いまの法令が違っていることがあります。 用途地域が変更されている。道路の扱いが変わっている。建築の基準が改正され、当時は適法だった建物が、いまの基準には合わなくなっている。都市計画が新たに決まった、あるいは廃止された。

つまり手元の資料は、「何を確かめるべきか」の手がかりにはなりますが、「いまどうなっているか」の答えにはなりません。 当たりをつけたうえで、現在の基準で調べ直す必要があります。

ただし、一度出した価格を上げるのは難しい

売り出した後で「思ったより良い条件でした」と分かっても、一度公開した価格を引き上げるのは、印象がよくありません。 できないわけではありませんが、買い手から見れば不自然に映ります。

つまり価格は、下げる方向には動かしやすく、上げる方向には動かしにくいという非対称があります。

高い価格から試したいのであれば、その根拠になる材料は、売り出す前に手元にあったほうがいいということです。

だから、売主が最初に決めておくこと

ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。

売主には、2つの進め方があります。どちらが正解ということはありません。

A:全部わかってから、価格を決める
自分の不動産の情報を先に把握・整理する。手元の資料を読み直し、必要なら不動産会社に調査を依頼する。そのうえで売り出し価格を決めます。時間はかかりますが、高い価格から試すなら、この順番になります。

B:机上に近い価格で売り出し、後から出てくることを許容する
仮の価格でも本決まりの価格でも構いません。まず売り出し、調査の結果は出てきた時点で受け止めます。早く動き出せます。

大事なのは、どちらを選ぶかを最初に決めておくことです。

Bを選んだのであれば、後から要因が出てくるのは想定内です。「話が違う」とはなりません。事実が先に来るか後に来るかの違いでしかない。

逆に、決めないまま進んだ場合。売り出してから出てきた情報が、すべて「後出し」に見えます。同じ出来事でも、受け止め方がまったく変わります。

失望や落胆の多くは、事実そのものではなく、順序を知らなかったことから生まれます。

Aを選ぶと、何が変わるか

先に調べておくことの実利は、はっきりしています。

「この価格では売れません」と言われたときの根拠を、あらかじめ潰しておけます。

マイナス要因が事前に分かっていれば、それを織り込んだ価格で売り出せます。逆に、懸念されていたことが問題なかったと分かれば、それは強気の価格を支える材料になります。どちらにしても、後から「実はこういう事情がありまして」と言われる余地が減ります。

とくにAを選ぶ価値が高い物件

すべての物件で先に調べる必要があるかというと、そうでもありません。ただ、調べる優先度が上がるサインはあります。

  • 前面道路が私道である
  • 昭和のうちに、あるいは平成20年より前に分譲された土地・建物
  • 建物や擁壁の設計図書、検査済証が見当たらない
  • 増築や改築をしたことがある
  • 他人の敷地を使っている、または自分の敷地を使われていると聞いたことがある

前面道路が私道の場合、通行や掘削の承諾、所有者が誰かの確認といった作業が発生します。相手のある話なので、時間が読めません。 売り出してから着手すると、買主を待たせることになります。

分譲の年代が古い場合は、当時の資料がどこまで確認されたものか、そしてその後に法令がどう変わったかを見ておく必要が出てきます。前の節で書いた重要事項説明書の厚さも、ここに関わってきます。

設計図書や検査済証が見当たらない場合。建築確認は受けていても、完了検査まで受けていない建物があります。検査済証がないと、建て替えや増築の手続きで説明を求められることがあり、買主の融資の場面で確認が入ることもあります。擁壁については、いつどういう基準で造られたかが分からないと、安全性の確認そのものができません。

増築や改築をしている場合。確認申請を経ていない増築があると、登記の内容と現況が合わなくなります。建ぺい率や容積率が、現在の基準に収まっていないこともあります。自分の代でなくても、前の所有者が行っていることがあります。

他人の敷地を使っている、または使われている場合。越境、通行、配管の3つが典型です。どれも相手のある話で、確認と書面の用意に時間がかかります。「そういえば昔、隣の人がそんなことを言っていた」という記憶があるなら、それは調べる理由として十分です。

ただし、当てはまるから問題がある、という意味ではありません。 調べて何も出てこないことは普通にあります。あくまで「先に確認しておく価値が高い」という目安です。

逆に、どちらにも当てはまらない物件であれば、Bの進め方でも大きな支障は出にくいと考えられます。

買取の前に、順番に聞くこと

そのうえで、「この価格では売れません」と言われたときの確認です。順番に聞いてください。一つひとつは、答えられて当然の質問です。

  1. 調査の結果、プラスの要因とマイナスの要因は、それぞれ何でしたか
  2. その根拠となる資料を見せてください(成約事例、現地の写真、図面、役所の調査内容)
  3. それぞれ、価格にどのくらいの影響がありますか(金額で、あるいは売却期間で)
  4. マイナス要因の影響を小さくするために、売主にできることはありますか。ないですか
  5. できるとしたら、費用の負担は生じますか。生じませんか
  6. 生じるとしたら、いくらですか
  7. それを実行すれば、いま売れていない要因は解消すると考えられますか。しませんか
  8. それは、販売を開始する前に分かることでしたか。分からないことでしたか
  9. 分からないことだったとしたら、なぜ分からなかったのですか

1から3で事実を出してもらい、4から7で打てる手があるかどうかを確かめ、8と9でいつ分かるはずだったのかを確認します。

8番と9番は、責めるための質問ではありません

この2問で分けたいのは、次の3つです。

  • 外の要因:近隣に新築が出た、同じマンションで安い部屋が出た、金利が動いた。売り出し後に発生したことなら、誰にも予測できません
  • 調査の範囲:役所で確認すれば分かることだったのか。であれば、いつ調べたのかという話になります
  • 順序の問題:情報を公開する前に調査が終わっていれば、価格を決め直せたのか

どれに当たるかで、次の一手が変わります。追及するためではなく、次を決めるために聞くということです。

もう一つ、背景として知っておくこと

価格の話とは別に、会社側の事情が働く場面があります。

売主から預かった物件を、他社に紹介せず自社の中で完結させたほうが、会社にとっては受け取る手数料が大きくなります。買主も自社で見つければ、売主と買主の双方から手数料を受け取ることになるためです。

これは会社を疑ってくださいという話ではありません。 ただ、そういう構造があるということは、知っておいたほうがいい。「売れない」という説明と、販売活動の実態が合っているかを確かめる根拠になります。

販売活動そのものを確かめる方法は、内覧が入らないのに買取提案だけ来るときの記事で詳しく書いています。この記事が価格の根拠を確かめるものだとすれば、そちらは売る努力の証拠を確かめるものです。あわせて確認してください。

より詳しい確認項目はチェックリストの記事にまとめてあります。

そもそも最初の価格が高すぎた場合

もう一つの可能性として、売り出し価格そのものが市場から離れていた、ということがあります。

複数社に査定を依頼したとき、いちばん高い金額を出した会社に任せた。その金額が、根拠のある数字ではなかった。この場合は価格改定——売り出し価格を市場に合わせる作業が必要になります。

価格改定の提案そのものは、正当な打ち手です。売り出して反応を見る、というのは実務では普通に行われます。問題になるのは、改定の幅と理由が示されないまま「下げましょう」だけが繰り返される場合です。

この構造については高値査定の記事で書いています。

それでも買取を選ぶ場合

買取が悪いわけではありません。 期日が決まっている、近隣に知られたくない、手間をかけられない。買取が合理的な選択になる場面は確かにあります。

問題なのは、確認しないまま買取に流れることです。9つを聞いたうえで「それでも買取のほうがいい」と判断したなら、それは納得のうえの選択になります。聞かないまま決めると、後から「もっとやりようがあったのでは」が残ります。

仲介と買取の違い、価格差が生まれる理由については買取の記事にまとめています。

まとめ

整理します。

  • 媒介契約の前でも、委任状を渡せば調査は可能。ただし実際にやるかどうかは会社による
  • そのため調査は販売開始後になることが多い。誰かの怠慢とは限らない
  • 手元の過去資料は手がかりになるが、答えではない。記載が十分でないことがあり、当時と今で法令が変わっていることもある
  • 一度出した価格は下げやすく、上げにくい。高値から試すなら材料は先に要る
  • だから売主は、「知ってから決める」か「机上に近い価格で出して後から受け止める」かを最初に選んでおく
  • 先に調べておけば、「その価格では売れない」と言われたときの根拠を、あらかじめ潰しておける
  • それでも言われたら、9つを順番に聞く

順序を知っていれば、後から出てきた事実に驚かずに済みます。失望の多くは、事実そのものではなく、順序を知らなかったことから生まれます。

買取に切り替えるかどうかは、そのあとで決めて構いません。急かされる理由は、売主の側にはないはずです。

この記事を書いた人

不動産業界で20年以上、今も現場に立ち続けている現役宅建士。宅建士(宅地建物取引士)は国家資格であり、重要事項の説明・契約書への記名押印は宅建士にしかできません。

不動産取引では、物件の法的・心理的な問題点や契約上のリスクを正確に把握することが非常に重要です。宅建士はそのための専門知識と法的責任を持っています。一方、宅建士が関与しない、営業が説明を行い、宅建士が重要事項説明書だけを読み上げるような取引では、重要な告知漏れや契約内容の不備が生じやすく、後からトラブルになっても法的な保護を受けにくいケースがあります。

なお、資格の名称を名乗るだけで免許を持たない悪質なケースや免許貸しのような法令順守をしていない会社もあります。会社のホームページで宅建士が在籍しているか、顔写真付きで掲示されているかなどを確認することが、ご自身と家族を守るためにも必要であると考えます。

現役宅建士
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不動産業界20年超。現役宅建士として、数百件の売買に携わってきました。

「もう少し早く知っていれば」——そんな言葉を、売主からも買主からも何度も聞いてきました。長年の経験で確信していることがあります。それは「ほんの少しの知識の差が、取引の明暗を分ける」ということ。

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