引き渡しが終わって、ようやく一段落——と思っていた頃に、不動産会社から連絡が入る。「買主さまから、雨漏りが見つかったとご連絡がありました」。
売主にとっては寝耳に水の話です。住んでいたときには何もなかった。それなのに、なぜ責任を問われるのか。この記事では、引き渡し後に雨漏りが発覚したとき、売主が何を負うことになるのか、そして負担の大きさが何によって決まるのかを整理します。
発覚は、引き渡しから1〜2ヶ月が多い
意外に思われるかもしれませんが、雨漏りの発覚は引き渡しから1〜2ヶ月のあいだに集中します。梅雨や台風を待たずに、それより早く出てくるのです。
理由は単純で、買主がすぐにリフォームを始めるからです。中古住宅を買った人の多くは、早く引っ越したいと考えています。だから間取りの変更や内装の工事に、すぐ着手する。そのとき、壁の中も、天井裏も開きます。そこに雨水の跡があれば、その時点で判明します。
もちろん、台風や長雨をきっかけに後から出てくることもあります。ただ、そちらは時期を読めません。読めるほうの発覚——つまりリフォームによる発見は、ほぼ確実に起きると考えておくべきです。
なぜ「知らなかった」では済まないのか
売主が引き渡す物件は、契約の内容に適合していなければなりません。これが契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)です(契約不適合責任の基礎知識)。
2020年の民法改正で、判断の基準は「隠れた欠陥かどうか」から「契約の内容に適合しているかどうか」に整理されました。つまり基準になるのは契約書と物件状況報告書に何が書かれているかです。
物件状況報告書に「雨漏り 無」と記載されていれば、買主は雨漏りのない物件として買ったことになります。そこに雨漏りがあれば、記載と実物が食い違っている——という構造になります。売主が知っていたかどうかは、この構造の入口では問われません。
買主が主張し得ること
不適合が認められた場合、買主が求め得る内容は次のとおりです。
- 修補請求——不具合を直すよう求められます
- 代金減額請求——不適合の程度に応じて、代金の減額を求められます
- 損害賠償請求——修補費用のほか、買主が被った損害の賠償を求められることがあります
- 契約の解除——契約の目的を達成できないと判断される場合、契約そのものを解除される可能性があります
実務で多いのは修補請求と代金減額請求です。ただし、いずれの場合も金額の話し合いが必要になります。そして、その金額を左右するのが次の点です。
負担額は「どこまで及んでいるか」で決まる
「雨漏りの補修はいくらか」という問いに、一律の答えはありません。同じ雨漏りでも、被害がどこまで及んでいるかで金額の桁が変わります。分岐点は3つです。
①表層で収まるか
屋根材の一部が傷んでいる、防水処理が劣化している——この段階であれば、該当部分の補修で対応できます。工事の範囲が限られるため、負担も限定的です。
②壁体内・構造部に及んでいるか
ここが最初の分岐点です。雨水が壁の内部に入り込んでいる場合、状態を確認するために解体が必要になります。解体して、直して、元に戻す。この工程が入ると、費用は表層の補修とは別の水準になります。
③腐食やシロアリを伴っているか
雨水が長期間入り込んでいた場合、木部の腐食やシロアリの被害を併発していることがあります。こうなると補強や部材の交換まで必要になり、範囲はさらに広がります。
つまり売主が気にすべきなのは「相場はいくらか」ではなく、自分の物件の雨漏りが、どの段階にあるかです。そして厄介なことに、それは開けてみるまで分かりません。表層の小さなシミに見えたものが、中では広く進行していた——ということが起こり得ます。
なお、補修の範囲そのものが争点になることもあります。買主は完全な回復を求め、売主は必要最小限で足りると考える。この対立の構造は雨漏りの範囲をめぐる争いの構造にまとめています。
免責特約は、どこまで効くのか
売買契約では、売主が責任を負う範囲や期間を限定する特約を設けることがあります。
個人が売主の場合
期間を限定する特約や、責任を負わないとする特約を設けること自体は可能です。実務では、引き渡しから一定期間に限る形や、設備については短い期間を設ける形などが見られます。
宅地建物取引業者が売主の場合
買主が個人であれば、宅地建物取引業法により、引き渡しから2年以上とする特約でなければ、買主に不利な内容は無効とされます。
そして、特約が効かない場面がある
ここが最も重要です。売主が知っていながら告げなかった事実については、免責特約があっても責任を免れることはできません。
特約は「知らなかったこと」への備えです。知っていて書かなかったことの盾にはなりません。
さらに、期間を短く設定しても安心はできません。前述のとおり、発覚は引き渡しから1〜2ヶ月に集中します。つまり特約で定めた期間の内側で発覚することが、むしろ通常なのです。
特約の内容は契約書に記載されます。サインの前に、その意味を確認してください(契約書にサインする前に確認すべきこと)。
負担を小さくするために、売却前にできること
知っていることを、書いて残す
最も効果があるのはこれです。過去に雨漏りがあったなら、いつ・どこで・どの程度で・いつ誰がどう処置したかを物件状況報告書に具体的に書く。書いたことは買主が了解した上で購入したことになり、後から責任を問われる可能性は大きく下がります。
逆に「直したからもう無い」と判断して「無」と記載すると、それは事実ではなく解釈になります。記載の考え方は物件状況報告書は自分で書くにまとめています。
建物状況調査(インスペクション)を検討する
専門家に建物の状態を診断してもらい、結果を書面で残す方法があります。費用はかかりますが、売主自身が「雨漏りはない」と断言するリスクを避けられます。屋根裏や防水層の劣化は、住んでいる人にも見えないためです。
診断で見つかった不具合は、その時点で開示するか補修するかを選べます。知らないまま引き渡すよりも、はるかに安全な状態になります。
手を入れた履歴は、早めに出す
過去の補修やリフォームの記録は、売却の早い段階で担当者に渡してください。告知の材料になるだけでなく、手を入れてきた建物であることが価格の根拠にもなります(問い合わせる前の準備ガイド)。
連絡は、どのように来るのか
不具合の連絡は、買主から売主へ直接届くわけではありません。買主 → 買主側の会社 → 売主側の会社 → 売主という経路をたどります。売主のもとに届くのは、二社を経由した後の情報です。
つまり第一報の段階では、実際にどこがどうなっているのか、正確なところは分かりません。「雨漏りが見つかった」という一文に集約されて伝わってきます。だからこそ、慌てて反応する前に、状況を確認する必要があります。
直接連絡が来た場合も、会社を通す
まれに、買主が売主へ直接連絡してくることがあります。近所に住んでいる、連絡先を知っている、といった事情がある場合です。
その場合も、その場で話を進めず、仲介会社を通すよう伝えてください。冷たい対応に思えるかもしれませんが、これは双方のための手順です。
理由は直接のやり取りが記録に残らないからです。善意で答えた一言が、後になって「認めた」「直すと言った」という主張につながることがあります。売主にその意図がなくても、それを証明する手段がありません。逆に買主が言っていないことを、売主が「聞いた」と受け取ってしまうこともあります。ここでもまた、言った言わないが起きます。
会社を通せば、やり取りが記録として残ります。感情的な行き違いも減ります(メールで記録を残す方法)。
連絡を受けたら、確認すること
- 状況を具体的に確認する——どこで、どのような状態か。写真があれば共有してもらう。伝聞で判断しない
- 自分の記憶と照らす——同じ箇所に過去の事象があったか。あったなら、それをどう伝えていたか
- 物件状況報告書の控えを確認する——何を書いていたかが、話の出発点になります
- その場で金額の約束をしない——範囲が確定していない段階で負担を約束すると、後から動けなくなります
- やり取りは記録に残す——電話で話した内容も、あとでメールにまとめて送っておく
売主側の不動産会社に相談することになりますが、会社が最後まで売主の側に立つとは限りません。取引が終われば担当者は次の案件に移っていますし、記載内容が問題になっている場合、会社自身の関与が問われる可能性もあるためです。
行政の相談窓口という選択肢もあります(不動産会社と揉めたら都庁へ)。ただし、金額の争いになっている個別の案件については、この記事の一般論で判断せず、弁護士にご相談ください。
結局のところ
引き渡し後の雨漏りで売主が負う金額は、雨漏りの大きさではなく、被害がどこまで及んでいたかで決まります。そして、それは開けてみるまで分かりません。
売主が事前にできる唯一のことは、知っていることを正確に書いて残しておくことです。書いた範囲については、買主が了解した上での購入になります。書かなかったことだけが、後から問題になります。
過度に恐れる必要はありません。ただ、「たぶん大丈夫だろう」で済ませないこと。それが、後の数年を左右します。
旧制度との違いも押さえておく
2020年の民法改正まで、この責任は「瑕疵担保責任」と呼ばれていました。旧制度で何がどう扱われていたかを知っておくと、古い資料や説明を読むときに混乱しません。

