買付証明書を受け取ったら。売主が返事の前に確認すべきこと【現役宅建士が解説】

買付証明書の内容を自宅で確認する売主夫婦 売却の基礎知識

「買付証明書が入りました」。売却活動の中で、最も緊張する連絡かもしれません。

ここで多くの売主が迷います。すぐに承諾すべきなのか、価格交渉に応じるべきなのか、そもそもこの買主で大丈夫なのか。この記事では、返事をする前に確認すべきことを、実務の側から順に整理します。

買付証明書が入った、という状態の意味

買付証明書は、購入の意思と希望条件を書面にしたものです。法的な拘束力は強くなく、買主が撤回することもあり得ます。だからといって不確かなものと考える必要もありません。

実務の肌感で言えば、撤回に至るのは1〜2割程度です。価格交渉(指値)が折り合わない、引渡時期が合わない、条件が合致しない——といった理由で流れることはありますが、大半は条件のすり合わせを経て成約に至ります。

つまり買付が入った状態は、「すぐに売れる」でも「どうせ流れる」でもありません。交渉が始まる合図です。焦る必要も、諦める必要もありません。

記載事項のどこを見るか

まず書面そのものを確認します。会社によって書式は違いますが、通常は次の項目が並んでいます。

  • 購入希望価格——売出価格からの指値(値引き交渉)が入っているか
  • 手付金の額——後述しますが、ここは重要な判断材料です
  • 引渡希望日——自分の予定と合うか
  • 融資利用の有無——現金か、住宅ローンか
  • 契約希望日
  • 有効期限
  • その他の条件——設備の扱い、修繕の要望などが付いていないか

価格に目が行きがちですが、この書面で本当に見るべきなのは、価格以外の項目です。価格は交渉できますが、買主が最後まで購入できるかどうかは、価格以外の情報から読み取ることになります。

手付金の額が語ること

意外に見落とされるのが手付金です。目安として、売買価格の3%以上が一つの基準になります。

3%を下回るとき

1%や2%という設定は、買主に自己資金の余裕がなく、ぎりぎりの資金計画である可能性を示します。資金に余裕がない買主は、その後の諸費用や引越し費用の段階でつまずくこともあります。

また、5万円や10万円といった極端に低い手付金が設定されている場合、買主側の会社が、契約を成立させるために手付を低く抑えるよう誘導している可能性もあります。件数を追う営業方針の会社では、こうした進め方が見られることがあります。

手付が少ないと、後から条件が出てくることがある

もう一つ、実務で見られる傾向があります。手付金が少ない取引では、契約後に買主側から追加の要望が出てくることがあるということです。

たとえば「あとから傷が見つかったので、直してから引き渡してほしい」といった要望です。金銭的な余裕がない買主ほど、こうした要望が出やすくなります。そして困るのは、買主の要望に寄り添おうとする売主側の担当者が出てくることです。契約を無事に決済まで運びたいという動機から、売主に譲歩を求める側に回ってしまう。

だからこそ、買付の段階で条件欄もよく確認してください。設備の扱いや修繕の要望が書かれていないか。書かれていないとしても、手付が少ない場合は「後から出てくるかもしれない」と想定しておくだけで、対応が変わります。

そもそも手付金とは何か

手付金は、契約が守られなかったときの費用でもあります。買主の都合で解約する場合は手付金を放棄し、売主の都合で解約する場合は手付金の倍額を返す——これが手付解除の基本的な仕組みです。

この説明を、担当者はしてくれるでしょうか。あるいは、契約書面を事前に見せてくれるでしょうか。実務では、重要事項説明と売買契約を同じ日に行うことがほとんどで、書面を事前に確認できる機会は多くありません。だからこそ、聞かなくても説明してくれるか、頼めば事前に見せてくれるかは、その会社の丁寧さを測る材料になります(契約書にサインする前に確認すべきこと)。

手付金を、いつ渡すか

手付金を事前に振り込むのか、契約当日に持参するのか。これも買主の状態を映します。

事前に振り込む買主は、その時点で不安が解消されているということです。逆に当日持参を選ぶ買主には、まだ何かしらの不安が残っている可能性があります。担当者への不安かもしれませんし、条件面かもしれませんし、物件そのものかもしれません。その中身まで売主が知ることは困難ですが、温度感は伝わります。

なお、事前に振り込んだからといって買主が離脱できなくなるわけではありません。契約前日や当日のキャンセルも、実際に起こり得ます。

買主の属性を確認する

ここからが本題です。買主がどういう方なのかを、担当者を通じて確認してください。

何を聞けばよいか

細かい詮索は不要です。勤務先の会社名も、勤続年数も聞く必要はありません。おおまかな職業の種別が分かる程度で十分です。あわせて、単独で組むのか、収入合算やペアローンなのか、親からの援助や自己資金があるかが分かれば、判断材料としては足ります。

「どのような方か、知っている範囲で教えてください」——この程度の確認は、売主として当然に聞いてよいことです。個人情報だから教えられない、という話にはなりません。

なぜ属性を見るのか

属性とは、簡単に言えば住宅ローンの通りやすさです。そしてその通りやすさは、金融機関から見て万一返済が滞った場合に回収しやすいかどうかという観点から決まっています。人としての価値や信用の話ではまったくありません。

あくまで金融機関の審査における傾向として、公務員、会社員、会社経営者や個人事業主といった順に、審査の見方が変わってくると言われます。収入の安定性をどう評価するかという、金融機関側の物差しの問題です。

借り方によっても違いがあります。単独で組む場合が比較的シンプルで、収入合算やペアローンになると、団体信用生命保険の加入条件など関係する要素が増えるため、審査の過程がやや複雑になります。通らないという話ではなく、確認事項が増えるという程度の違いです。

ただし、これがすべてではありません

ここに書いたのは一般的な傾向にすぎません。実際には、勤務先ごとの職域金融機関を利用するケースもあります。たとえば公務員の方が職域の信用組合を使う場合、その組織に所属する方だけが利用できる住宅ローンがあり、独自の条件や手続きが設けられていることがあります。

ですから、一般的な傾向だけで判断せず、実際にどの金融機関を利用する予定なのかを確認することが大切です。

担当者が把握していないなら、そこで止める

もし担当者が買主の属性を把握していなかったら、その状態で交渉を進めるべきではありません。理由は、どちらのケースでも問題があるからです。

  • 両手(売主・買主の双方を自社で担当)の場合——自社の買主なのですから、知らないはずがありません(両手仲介と片手仲介の違い)
  • 片手(売主側のみ担当)の場合——売主の利益を預かる立場として、当然ヒアリングすべき事項を確認していないということです

「買主側が教えてくれないので」という説明が返ってきた場合も同様です。売主側の代理として動く立場を理解していないか、積極的に確認していないか、そのどちらかです。

そして、この質問への答え方は担当者の温度感を映します。この契約を成立させたいのか、そうでもないのか。すらすらと答えられる担当者は、買主側と密に情報をやり取りしています。

事前審査は「あるかないか」ではなく「どこで、何を見たか」

融資利用の買付であれば、事前審査の確認は必須です。ただし「事前審査は通っています」という報告を、そのまま受け取ってはいけません。事前審査は、金融機関によって内容がまったく違うからです。

ネット銀行の事前審査

対象不動産の担保評価を取らない会社が多く、買主の属性を中心とした簡易な審査になりがちです。そのため、他の借入の状況などによって、本審査の段階で結果が変わることがあります。事前が通っていても、安心材料としては弱いと考えてください。

都市銀行の事前審査

基本的に担保評価を取ります。各種の個人情報も申告させ、他の借入の状況も把握した上で回答します。ここを通っていれば、本審査で結果が覆ることは多くありません。

フラット35の事前審査

事前審査は簡易なもので、判断材料としては限定的です。確認すべきは本審査まで進んでいるかどうかです。本審査が通っていれば、それは確かな根拠になります。

承認された書面が出せるか

もう一つの確認方法があります。事前承認の結果が書面で出ているかです。金融機関から発行された承認の通知があれば、それが最も確かな根拠になります。

会社によっては、担当者へのヒアリングだけで「大丈夫です」と回答するところもあります。書面が出せるかどうかを聞いてみてください。

事前審査が済んでいなければ、そこまでで止める

住宅ローンを利用する買付で事前審査がまだの場合、その状態で契約に進むことは推奨しません。

住宅ローンを利用する契約には融資特約が付き、融資が承認されなければ契約は白紙解除になります。買主に責任はなく、手付金も返還されます。売主に残るのは、それまでに費やした時間だけです。

その間、物件は「商談中」として市場から外れています。他の買主候補が現れる機会も失われています。数週間から1ヶ月以上を失って、振り出しに戻ることになります。

現金購入の場合も、確認は必要です

「現金で購入します」という買付は、融資特約がないため一見すると確実に見えます。しかし、その金額が実際に手元にあるかどうかは、別の話です。

実務では、通帳の写しで残高を確認します。全ページを見る必要はなく、残高が分かる部分だけで十分です。この確認を担当者がしているか、聞いてみてください。

また、資金を海外から送金する予定がある場合は注意が必要です。国によっては送金額の上限や規制があり、その内容が変わることもあります。決済の直前になって資金が届かないという事態を避けるため、契約前の段階で日本国内に資金を移してもらうよう進めておくのが安全です。

「買主が逃げてしまいます」と急かされたら

返事を急かされることがあります。「早く返事をしないと、買主が逃げてしまいます」「この条件を逃すともったいないですよ」。

ここで一度、立ち止まってください。その焦りは、誰のためのものでしょうか。

媒介契約を結んだ会社は、売主の利益を預かる立場にあります(媒介契約書へのサインは「お願い」ではなく「契約」)。その立場の人間が、理由を示さずに売主を焦らせているとしたら、それは売主のための助言ではなく、契約を成立させるための言葉である可能性があります。

だから、こう聞いてください。「なぜ急ぐ必要があるのですか」。買主の転居予定や融資の実行時期など、具体的な事情があるなら説明できるはずです。説明が返ってこないなら、急ぐ理由は買主側ではなく、別のところにあります。

同じ構造の話は内覧の現場で見える兆候にもまとめています。

買主側の会社の姿勢も、見えてくる

売主が直接の当事者ではないけれど、知っておくと役に立つ視点があります。

買主側の重要事項説明書に、「ローン代行手数料」といった名目の費用が記載されていることがあります。これは買主が負担するもので、売主に直接の不利益はありません。

ただし、こうした費用を設定している会社は、取引の各場面で費用を上乗せする姿勢を持っている可能性があります。司法書士への依頼などの場面で、売主側にも本来は不要な費用が発生することがあります。売却にかかる費用の全体像はこちらにまとめていますが、見積もりに知らない名目の費用が並んでいたら、一つずつ内容を聞いてください。

わからないことを、わからないまま進めない

ここまでの確認事項をまとめます。

  1. 手付金の額は売買価格の3%以上か。条件欄に要望が付いていないか
  2. 買主の属性を担当者は把握しているか
  3. 融資利用の場合、事前審査はどこの金融機関で、どの段階まで進んでいるか。承認の書面は出せるか
  4. 現金購入の場合、残高の確認はされているか。海外からの送金予定はないか
  5. 引渡時期は自分の予定と合うか
  6. 手付解除の仕組みについて、説明を受けたか
  7. 急かされている場合、その理由は説明されているか

そして、これらのやり取りはメールで残してください(メールで記録を残す方法)。「事前審査は通っていると聞いた」という記憶は、あとから確認できません。

売買契約は、一度結べば簡単には戻せません。わからないことをわからないまま進めるのが、最も危険です。聞けば分かることは、その場で聞いてください。売主が質問することは、何も特別なことではありません。

価格交渉への対応は値引き交渉されたときの考え方、買主の見極めについては内覧に来た買主を見極める方法を参照してください。買付証明書そのものを受け取れていない場合は買付証明書を受け取らない仲介会社もあわせてご覧ください。

買付が入ってからが、売却の本番です。確認すべきことを確認してから、返事をしてください。

この記事を書いた人

不動産業界で20年以上、今も現場に立ち続けている現役宅建士。宅建士(宅地建物取引士)は国家資格であり、重要事項の説明・契約書への記名押印は宅建士にしかできません。

不動産取引では、物件の法的・心理的な問題点や契約上のリスクを正確に把握することが非常に重要です。宅建士はそのための専門知識と法的責任を持っています。一方、宅建士が関与しない、営業が説明を行い、宅建士が重要事項説明書だけを読み上げるような取引では、重要な告知漏れや契約内容の不備が生じやすく、後からトラブルになっても法的な保護を受けにくいケースがあります。

なお、資格の名称を名乗るだけで免許を持たない悪質なケースや免許貸しのような法令順守をしていない会社もあります。会社のホームページで宅建士が在籍しているか、顔写真付きで掲示されているかなどを確認することが、ご自身と家族を守るためにも必要であると考えます。

現役宅建士
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不動産業界20年超。現役宅建士として、数百件の売買に携わってきました。

「もう少し早く知っていれば」——そんな言葉を、売主からも買主からも何度も聞いてきました。長年の経験で確信していることがあります。それは「ほんの少しの知識の差が、取引の明暗を分ける」ということ。

難しい専門知識は必要ありません。わずかなポイントを押さえるだけで、誰でも安心して納得のいく取引ができます。

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