報告書は、期日どおり届いています。
ただ、書いてあるのは一行だけ。
「引き続き活動中です」
先月もそうでした。その前も同じでした。何件問い合わせがあったのか、広告は出ているのか、内覧に来た人が何と言ったのか。何も分かりません。
この記事は、そこから何を聞けば答えが返ってくるかの話です。
まず、法律が決めているのは「頻度」と「方法」です
宅地建物取引業法は、媒介契約を結んだ会社に報告を義務づけています。
- 専属専任媒介契約——1週間に1回以上
- 専任媒介契約——2週間に1回以上
そして方法も決まっています。標準媒介契約約款では、報告は「媒介契約書に記載する方法及び頻度により」行うものとされ、その方法は文書または電子メールのいずれかを選んで契約書に記入することになっています。
つまり、自分の媒介契約書を見れば、どちらで来るはずなのかが書いてあります。 まずそこを確認してください。
なお、この頻度を下げるような特約は無効とされています(宅地建物取引業法第34条の2第10項)。「報告は月1回で」と契約書に書かれていても、その部分は効きません。
「報告は口頭でもよい」という説明を見かけますが
ネット上には、「報告の方法に決まりはなく、口頭でも構わない」と書かれたものがあります。
法律の条文そのものは、方法を指定していません。その意味では間違いではありません。
ただし、標準媒介契約約款を使っているなら、話は別です。 約款では報告を「媒介契約書に記載する方法及び頻度により」行うものとし、その方法として文書または電子メールのいずれかを選んで記入することになっています。
選択肢に「口頭」は入っていません。
ですから「電話で伝えました」だけでは、契約書で選んだ方法を満たしたことになりません。まず自分の媒介契約書の報告欄を見てください。 そこに書いてあるほうが、正解です。
ところが、「内容」を定めた規定はありません
ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。
法律も約款も、何回、どういう手段で報告するかは決めています。 けれど、そこに何を書くかは決めていません。
ですから——「引き続き活動中です」の一行でも、直ちに義務違反だとは言い切れません。
期日どおりに、決められた方法で届いている。形式としては満たしています。
ここを誤解すると、話が止まります
「中身がないのは業法違反ではないか」と切り出す方がいます。気持ちは分かります。
ただ、そう詰めると相手は「頻度も方法も守っています」と答えます。事実そのとおりなので、そこで会話が終わります。
違反かどうかを争う場面ではありません。 求める場面です。
「答えられない」のには、理由があります
詳しく書いてもらえないのは、隠しているからとは限りません。書くものが手元にない、という場合があります。
実務の肌感として、こういう状態の会社が少なくありません。
- 記録しているのは自社サイトの閲覧数だけ
- 他社からの問い合わせは電話で来て、電話で終わる
- 誰が、どの会社から、何を聞いてきたのかがどこにも残っていない
だから報告書はこうなります。「スーモに掲載しました」「アットホームに掲載しました」「自社サイトの閲覧がありました」。
掲載したことは事実なので、嘘ではありません。ただ、それは「何をしたか」であって「何が起きたか」ではありません。
そして売主の側も、そういうものだと思って、それ以上聞きません。 両方が「そういうもの」と思っているので、そのまま3か月が過ぎます。
いちばん見えていないのは、他社の動きです
あなたの物件を紹介しようとしているのは、依頼した会社だけではありません。
レインズに登録されていれば、他社の営業も見ています。 そして問い合わせをしてきます。
そのとき、相手は何を聞いているのか。
- 紹介できるか
- いつから内覧できるか
- 価格の相談はできるのか
- 引き渡し時期について相談はできるか
ここに、いちばん濃い情報があります。 実際に売ろうとしている人たちが、何を気にしているかが出るからです。
ところが、そのやり取りは依頼した会社の中で完結して、売主には届きません。
記録できる環境は、もうあります
ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。
以前は、問い合わせの内容をデータにするのは手間でした。電話を取って、紙にメモして、報告書に転記する。
いまは違います。
業界でもデジタル化が進み、着信と顧客情報を結びつける仕組みの導入が広がっています。どの会社から、いつ、どういう内容の問い合わせがあったか。記録として残すことが、以前ほど難しくなくなりました。
できることも増えています。
- どの会社からの問い合わせが多いか
- 紹介しようとしている担当者が、何を気にしているか
- どの媒体から、どのくらいの反響があったか
つまり、可視化できる環境が増えています。
それなのに、毎週・毎月、変わらない一行しか届かない。問い合わせがあるのかないのかも分からない。
できない時代だったなら、仕方がありません。できるようになってきた時代に、していないのだとしたら、そこには理由があるはずです。
ただし、いまは過渡期です
公平に書いておきます。すべての会社ができるわけではありません。
仕組みを入れていない会社、入れていても現場まで運用が回っていない会社。どちらも実際にあります。 規模の大小とも、必ずしも一致しません。
できないこと自体を責める話ではありません。 大事なのは、できるかどうかを、任せる前に知っておくことです。
だから、契約する前に聞いてください
ここまでを踏まえると、順番が変わります。
報告が来てから「詳しく書いてください」と頼むより、契約する前に聞いておくほうが早い。
聞き方は一つで足ります。
「販売活動のご報告では、どこまで教えていただけますか」
そのうえで、知りたい項目を具体的に伝えます。問い合わせの件数、他社からの反響、内覧の反応。契約前なら、こちらにはまだ選ぶ余地があります。
答え方そのものが、判断材料になります
返ってくる答えは、だいたい2種類に分かれます。
- 「毎週、問い合わせ件数と内訳をお出しします」——数字で答えている
- 「当社は大手ですので」「地元密着ですので」「これまでもこの形でやっておりますので」——数字が出ていない
後者は、質問への答えになっていません。会社の属性の説明です。
大手だから報告が細かいとは限らず、地元密着だから丁寧とも限りません。属性と、実際に何を出せるかは、別のことです。
定量で見る癖をつける。 それだけで、後からの行き違いはかなり減ります。売主にとっても、会社にとっても、そのほうが楽なはずです。
何を聞けば、答えが返るか
抽象的に「もっと詳しく」と言っても、返ってくるのは抽象的な答えです。項目を指定してください。
①反響(問い合わせ)の件数
この期間に、何件の問い合わせがあったか。ゼロならゼロと書いてもらう。 それも情報です。
ゼロが続いているなら、原因は価格か、露出か、その両方です。「活動中」では、そのどちらなのかが分かりません。
②内覧の件数と、来た方の反応
何組が実際に見に来たか。そして何を見て、何と言ったか。
「狭く感じたようです」「駅からの距離を気にしていました」「価格については触れていませんでした」。この粒度で返ってくれば、次に何を直すかが決まります。
逆に、内覧があったのに何も分からないままなら、そこを聞いてください。案内した人が別のスタッフだったとしても、報告は上がっているはずです。
③広告の掲載状況
どのポータルサイトに、いつから、どういう内容で出ているか。これは売主が自分でも確認できます。 物件名や所在で検索してみてください。
出ていない、写真が少ない、間取り図がない。見れば分かることです。
④レインズの登録状況
登録されているか。取引状況はどうなっているか。登録証明書は受け取っているか。
ここは義務がはっきりしている部分なので、確認しやすいところです(3種類の媒介契約とレインズ義務の比較)。
求め方は、メールで
電話で「もう少し詳しく」と言っても、次の報告書は同じ一行かもしれません。
項目を並べて、メールで送ってください。
「次回のご報告から、①問い合わせ件数 ②内覧件数と反応 ③広告の掲載状況 ④レインズの登録状況 を記載していただけますでしょうか」
これだけです。依頼した記録が残り、次から様式が変わることもあります(記録の残し方)。
出てこないときに、分かること
求めても変わらなかった場合、そこには意味があります。
考えられるのは二つです。
- 出せない——記録を取っていない、あるいは共有されていない
- していない——報告すべき活動そのものが少ない
どちらであっても、売主にとっては同じことです。任せている先の状態が、見えていません。
そして、求めたという事実は残ります。これは後から効いてきます。 契約を見直す判断をするときも、根拠になるのは「いつ求めて、どう返ってきたか」です(媒介契約を途中でやめたいとき)。
報告そのものが来ていない場合は、話が変わります。そちらは頻度の問題なので、義務違反にあたります(報告が来ないときにできること)。
「そろそろ値下げを」と言われたとき
報告の中身が薄いまま、値下げの話だけが具体的に来る。この形は、実務でよく見ます。
先に書いておきます。値下げの提案そのものは、おかしなことではありません。 相場と合っていなければ、動かないのは事実です。売れる価格を伝えるのは、仕事のうちです。
問題は、根拠が出てくるかどうかです。
ここで使える定めがあります。標準媒介契約約款は、媒介価額について意見を述べるときは根拠を示して説明することを求めています。
つまり、「そろそろ下げましょう」だけでは足りません。 こう聞いてください。
- 近隣で実際に成約した事例は、いくらだったか
- いま売り出し中の競合物件は、どの価格帯か
- いくらまで下げれば動くと考えているか。その根拠は何か
資料が出てくるなら、その担当者は仕事をしています。下げる判断も、根拠があればできます。
出てこないまま「とにかく下げましょう」が続くなら、それは別の話です。最初の査定価格が、売れる価格ではなかった可能性もあります(査定価格はどう作られるか)。
報告書の様式は、会社ごとに違います
ひとつ補足しておきます。
報告書がシステムから自動で出力される会社では、選べる文言があらかじめ決まっていることがあります。 担当者が手を抜いているのではなく、様式の中に書く欄がない、という場合です。
ですから、こう頼むと通りやすくなります。
「報告書の様式はそのままで構いませんので、内容をメールで補足していただけますか」
様式を変えろという要求ではなくなるので、断る理由がなくなります。そしてメールなら、こちらにも記録が残ります。
更新の時期は、判断の区切りです
媒介契約の有効期間は、最長3か月です。
報告が薄いまま、その期限が近づいてくる。そして「更新をお願いします」と言われる。ここが、いちばん流されやすい場面です。
知っておいてほしいことがあります。更新は、依頼者から文書で申し出るものとされています。 こちらから何も言わなければ、契約は期間の満了で終わります。
自動では続きません。
ですから、更新するかどうかを決める前に、一度整理してください。
- この3か月で、問い合わせは何件あったか
- 内覧は何組来たか。その反応はどうだったか
- 求めた報告は、返ってきたか
答えられないなら、それが答えです。更新するにしても、次の3か月をどう動くのかを確認してから決めれば足ります。
やめる場合の手順や費用については、こちらの記事にまとめています。期間の満了を待つのが、いちばんもめません。
内覧があったのに、何も分からないとき
内覧は入った。けれど報告は「残念ながら契約には至りませんでした」の一行。
こういうとき、本当に見に来たのだろうかと疑いたくなる方がいます。
ただ、疑っても確かめようがありません。疑うかわりに、中身を聞いてください。
実際に見た人にしか言えないことがあります。どの部屋を長く見ていたか。収納を開けたか。窓から何を見ていたか。答えが返ってくれば、それだけで分かります。
そして、その情報は次に効きます。内覧はされるのに決まらない場合、原因が別のところにあることもあります(内覧はされるのに売れないとき)。
まとめ
- 報告義務が定めているのは頻度(専属専任1週間/専任2週間に1回以上)と方法(文書または電子メール。契約書に記載)
- 報告の「内容」を定めた規定はない。だから「活動中」の一行でも、直ちに違反とは言い切れない
- 頻度を下げる特約は無効(第34条の2第10項)
- 違反を争う場面ではなく、求める場面。抽象的に頼まず、項目を指定する
- 書けないのは、記録が無いからという場合がある。多くの会社が残しているのは自社サイトの閲覧数だけで、他社からの問い合わせは電話で来て電話で終わる
- いちばん濃い情報は、他社の営業が何を聞いてきたか。実際に売ろうとしている人が気にしている点が出る
- 記録できる環境はもうある(CTI等の導入が進み、可視化のハードルが下がった)。ただし過渡期で、できない会社も実際にある
- だから契約する前に聞く。「ご報告では、どこまで教えていただけますか」
- 答えが「大手ですので」「地元密着ですので」なら、それは質問への答えではない。属性と、出せる情報は別。定量で見る癖をつける
- 聞くのは①反響件数 ②内覧件数と反応 ③広告の掲載状況 ④レインズの登録状況
- 求めても出てこないなら、「出せない」か「していない」か。どちらでも、見えていないことに変わりはない
- 値下げの提案自体は正当。ただし約款は根拠を示して説明することを求めている。成約事例・競合・下げ幅の根拠を聞く
- 報告が来ていない場合は頻度の問題で、こちらは義務違反にあたる
- 「報告は口頭でもよい」という説明があるが、標準媒介契約約款では文書か電子メールのいずれかを契約書で選んでいる。口頭は選択肢にない
- 様式に書く欄がないなら、「様式はそのままで、内容はメールで補足を」と頼めば通りやすい
- 更新は依頼者から文書で申し出るもの。黙っていれば満了で終わる。更新の前に、3か月の実績を整理する
「活動中」の一行が続くと、任せていていいのか分からなくなります。
ただ、それは相手を疑う前に、聞けば分かることでもあります。
聞いて、答えが返ってくるなら任せられる。返ってこないなら、そこで初めて考えればいい。順番はそれで足ります。 決めるのは、売主自身です。

