「他社にお願いしようと思います」。あるいは「今回は売るのをやめます」。
そう伝えたところ、それまでにかかった費用を請求されました。
広告を出した、現地に何度も足を運んだ、内覧の対応をした。だから、その分を精算してほしい——。想定していなかった話に、戸惑う方は少なくありません。
専属専任媒介契約や専任媒介契約の途中解約——中途解約とも呼ばれます——について、何が請求されうるのか、どう伝えればいいのか、そしてそもそもこの状況をどう避けるかを整理します。
まず、原則を押さえてください
媒介契約は、契約です。原則として、売主の側から一方的にやめられるものではありません。
ここを取り違えたまま進む方がいます。「頼んだだけ」「お願いしただけ」という感覚のまま、やめたくなったらやめられる、と考えてしまう。実際には、期間の定めがあり、双方に義務が生じています。
そのうえで、実際にどうなっているか。
解除の申し出に、そのまま応じる会社もあります。 費用の話を一切せずに、分かりましたと引き受けてくれることもある。
ただ、そこは正確に受け止めてください。会社の側に何の落ち度もないのに、あっさり応じてもらえたのなら、それは幸運です。 通常そうなる、というものではありません。
それは会社の判断であって、売主が一方的に行使できる権利ではありません。 応じてくれるかどうかは、相手と、経緯と、そのときの状況によります。
「やめられるはず」と考えて動くのと、「原則はやめられない契約だが、話し合いの余地はある」と考えて動くのとでは、持っていく材料が変わります。
「違約金」と「費用の償還」は、別のものです
請求されるとしたら、何の名目か。ここを取り違えている解説が多いので、整理しておきます。
媒介契約書に「標準媒介契約約款に基づく」と記載されていれば、その約款の定めが適用されます。まずは自分の媒介契約書を開いて、その記載があるか確認してください。 ここが出発点です。
そのうえで。約款には、違約金の定めも、費用の償還の定めも、両方あります。 どちらになるかは、何をしたかで決まります。
| 何をしたか | 請求されうるもの | 金額 |
|---|---|---|
| 途中で解除した(会社に落ち度がない場合) | 費用の償還 | 実際にかかった費用。上限は約定報酬額 |
| 専任で、自分が見つけた相手と契約した | 費用の償還 | 実際にかかった費用。上限は約定報酬額 |
| 期間中に他社にも依頼して、そちらで成約した | 違約金 | 約定報酬額に相当する額 |
| 専属専任で、自分が見つけた相手と契約した | 違約金 | 約定報酬額に相当する額 |
「約定報酬額」は、成約していたら受け取れたはずの仲介手数料のことです。
途中解約なら、費用の償還
約款では、不動産会社の責めに帰すことができない事由によって媒介契約が解除されたとき、会社は媒介契約の履行のために要した費用の償還を請求できるとされています。
そしてその額は、約定報酬額を超えることはできません。 上限が定められています。
ここで大事なのは、「会社の責めに帰すことができない事由」という条件です。裏を返せば、会社の側に落ち度があって解除に至った場合は、この要件を満たしません。 後ほど詳しく書きます。
専任で「自分が見つけた相手」と契約した場合も、費用の償還
ここは誤解が多いところです。
専任媒介契約では、自分で見つけた相手と直接契約することが「できます」。 禁止されていません(できないのは専属専任のほうです)。
そのため「専任なら、自分で買主を見つければ仲介手数料はかからない」と理解している方がいます。ここが落とし穴です。
約款では、費用の償還を請求できる場合として、解除のほかに「有効期間内に、依頼者が自ら発見した相手方と売買または交換の契約を締結したとき」が並べて定められています。
つまり、自己発見取引そのものは認められているが、それまでにかかった費用は請求されうるということです。手数料はかからなくても、ゼロで済むとは限りません。
もうひとつ。約款では、自分で見つけた相手と契約しようとするときは、あらかじめ不動産会社に通知しなければならないとされています。事後報告ではありません。
黙って進めるのが、いちばんもめます。自己発見取引そのものについては別の記事で書いています。
なお専属専任媒介では、自己発見取引そのものができません。 それに反して契約した場合は、費用の償還ではなく違約金の対象になります。同じ「自分で見つけた」でも、契約の種類で扱いがまったく違います。
3種類の媒介契約の違いと選び方は、「媒介契約の選び方」で詳しく書いています。
他社に頼んでいた場合は、違約金
こちらは性質が違います。
専属専任媒介契約・専任媒介契約は、期間中に他の不動産会社へ重ねて依頼することができません。 それに違反して他社で成約させた場合、約款では約定報酬額に相当する額を違約金として請求できるとされています。
専属専任媒介では、さらに自分で見つけた相手と直接契約することも禁じられており、これも違約金の対象です。
費用の償還のような「実費」ではありません。 手数料まるごとに相当する額です。
「解除したい」と考えている段階の方は前者ですが、すでに他社に動いてしまっている場合は、話が変わります。 心当たりがあるなら、そこを先に確認してください。
「うちなら安くします」と持ちかけられたとき
やめたくなる理由が、自分の中から出てきたものとは限りません。外から持ちかけられることがあります。
実務では、こういう形で起きます。
- 内覧に来た他社の担当者が、帰り際に「うちで預かれば手数料を安くできます」と持ちかける
- 「購入希望のお客様がいます」というDMや、ポストに投函されたチラシが届く
- 「いまの契約は、理由をつければ解約できますよ」と、やめ方まで教えてくれる
業界では抜き行為と呼ばれています。他社が預かっている物件を、契約期間中に自社へ移そうとする働きかけのことです。
切り替えた費用は、売主が払うことになります
ここが肝心です。
前に書いたとおり、専属専任媒介・専任媒介の期間中に他社へ依頼して成約させれば、約定報酬額に相当する違約金の対象になります。
「手数料を安くします」で浮く額より、違約金のほうが大きくなることがあります。 そして違約金を請求されるのは、勧誘した会社ではありません。売主です。
「お客様がいます」は、その場で確かめられます
本当に購入希望者を抱えているのなら、いまの会社を通して紹介できるはずです。
物件がレインズに登録されていれば、他社は普通に問い合わせて内覧を申し込めます。それが指定流通機構の仕組みです(3種類の義務を比較した早見表)。
つまり、買主を紹介するのに、契約を切り替える必要はありません。
それなのに「まず契約を移してから」と言うのであれば、順番が逆です。 そう伝えて、いまの会社経由で話を進めてもらえばいい。それで話が消えるようなら、購入希望者は具体的ではなかったということになります。
ただし、切り替えるべき場合もあります
誤解のないように書いておきます。いまの会社に義務違反があるなら、話は別です。
報告が来ない、レインズに登録されていない、媒介契約書が交付されていない。そちらには、解除に進む根拠があります。 この記事で書いてきたとおりです。
問題なのは、他社の営業をきっかけに、根拠のないまま動いてしまうことです。
判断の順番はこうです。いまの会社に落ち度があるかどうかを、先に確かめる。 他社の話に乗るかどうかは、その後です。
いまの契約が、その「切り替えるべき場合」に当たるのかどうか。報告の頻度、レインズの登録、他社経由の内覧——確かめられる項目を順に見ていくなら、媒介契約の見直し判定を使ってください。解約を決める前に、何を会社に聞けばいいかが分かります。
会社が強く出ることがあるのは、なぜか
ここを理解しておくと、身構え方が変わります。
媒介契約を結んだ時点で、会社はその物件を「契約できる案件」として見込んでいます。 広告を出し、人を動かし、時間を割いている。そのすべては、成約したときの報酬で回収する前提です。
途中でやめられることほど、痛いことはありません。 かけた費用は戻らず、見込んでいた売上も消えます。
だから、会社によっては弁護士を前に出してきます。 内容証明郵便などの手続きに進むこともあります。
「そこまでの話になるとは思わなかった」と驚かれる方がいます。ただ、これは敵意の表れというより、この契約はそういう重さのものだと伝えていると受け取ったほうが実態に近い。会社の側から見れば、費用の回収は業務の一部です。金額によっては専門家に任せるという判断になります。
媒介契約は、それだけ重い契約行為です。 「大丈夫だろう」で進めないこと。それが結局、自分を守り、この先の展開を自分で選べる状態に置くことになります。
請求を退けられる可能性を上げるのは、記録です
では、請求されたときに何ができるのか。
こちらが持てる根拠のうち、いちばん強いのは不動産会社の側が義務を果たしていなかったことです。レインズに登録していなかった、業務の報告をしていなかった。そうした事情があれば、費用の請求は認められにくくなります。
ただし、根拠になるのは「義務違反があったこと」ではありません。「義務違反があったと、示せること」です。
この2つは、実務ではまったく別のものになります。そして、示せるかどうかを決めるのは、もめ始めてからの動きではなく、それまでに何を残してきたかです。
大半は「言った言わない」で止まります
「報告が来ていませんでした」と売主が言う。会社の側は「ご報告していました」と言う。
記録がなければ、そこで止まります。 どちらの言い分が正しいかを判断する材料が、どこにもないためです。
実務の肌感として、この段階でつまずく方が大半です。 不満があったこと自体は本当でも、それを示せるものがない。電話で何度も催促した、という記憶はあっても、日付も内容も残っていない。
そして、話し合いで折り合わず裁判にまで進んだ場合、「あったはずだ」では足りなくなります。 主張する側が、それを裏づけるものを出すことになるためです。
つまり、どの段階であっても効いてくるのは記録です。 交渉なら相手が引く材料になり、それより先へ進んだときは、そのまま主張の裏づけになります。
根拠になりうるのは、この4つ
では、何が義務違反にあたるのか。宅地建物取引業法が定めているもののうち、売主の側から確かめられるものを挙げます。いずれも、書面や日付で残せます。
- 媒介契約書が交付されていない——契約したのに書面がない。義務の内容そのものが定まりません
- 報告が来ない——専属専任媒介は1週間に1回以上、専任媒介は2週間に1回以上と定められています(報告が来ないときにできること)
- レインズに登録されていない——登録期限があり、登録すると証明書が発行されます(3種類の義務を比較した早見表)
- 広告や販売活動の実態がない——約束した活動が行われていない
このうちレインズの登録証明書は、いちばん確かめやすい部類です。書面として残り、日付が入っているためです。
契約書に書いてあっても、無効になる定めがあります
ここは知っておく価値があります。条文にこう書かれています。
第三十四条の二
10 第三項から第六項まで及び前二項の規定に反する特約は、無効とする。
対象になっているのは、有効期間の上限、レインズへの登録、そして報告の頻度です。
つまり、媒介契約書に「有効期間は6か月とする」「報告は月に1回とする」と書かれていたとしても、その部分は効きません。 署名や押印をしていても同じです。
有効期間についてはもう一段はっきりしていて、3か月を超える期間を定めた場合、その契約は3か月として扱われます(同第3項)。無効になって期間が消えるのではなく、3か月に切り詰められます。
さらに、標準媒介契約約款そのものにも、同じ趣旨の定めがあります。
約款の各条項に反する特約で、依頼者に不利なものは無効。 こう書かれています。
法律だけでなく、約款の側でも二重に守られているということです。契約書の特約欄に見慣れない条件が書き足されていたら、それが自分に不利なものかどうかを見てください。 不利であれば、署名していても効かない可能性があります。
解除には、手順が決まっています
ここはあまり知られていません。標準媒介契約約款には、解除のしかたが書いてあります。
①相手が義務を果たさないとき——催告してから解除する
約款では、どちらかが契約に定める義務を果たさない場合、相手方は「相当の期間を定めて履行を催告」し、その期間内に履行がなければ解除できるとされています。
読み飛ばしそうな一文ですが、売主にとっては、いちばん使える手順です。
「レインズの登録証明書を、○月○日までにお送りください」「前回のご報告から3週間空いています。○日までにご報告をお願いします」。期限を切って、書面で求める。 これが催告です。
そして、ここが大事なところです。
催告そのものが、記録になります。
応じてもらえれば問題は解消します。応じてもらえなければ、「いつ求めて、応じてもらえなかったか」が残ります。 前の項で書いた「示せるかどうか」は、この一手で大きく変わります。
メールで送ってください。記録の残し方は別の記事に書いています。
②催告しなくても解除できる場合
約款では、次のような場合に依頼者の側から解除できるとされています。
- 不動産会社が、業務について信義を旨とし誠実に遂行する義務に違反したとき
- 重要な事項について、故意または重大な過失により事実を告げなかった、あるいは事実と違うことを告げたとき
- 宅地建物取引業に関して、不正または著しく不当な行為をしたとき
いずれも、程度の重い話です。ただ、こういう道が用意されていること自体を知らないまま、我慢している方がいます。
この2つが、費用の話につながります
前に書いたとおり、費用の償還を請求できるのは「会社の責めに帰すことができない事由」で解除された場合です。
裏返せば、会社の側に落ち度があって解除に至ったのなら、その要件を満たしません。
だからこそ、催告が効いてきます。 期限を切って求め、応じてもらえなかった。その事実が残っていれば、「会社に落ち度がなかった」とは言いにくくなります。
逆に、何も求めないまま「対応が悪いのでやめます」と伝えると、会社に落ち度がないまま解除した形になります。同じ不満でも、扱いが変わります。
後から覆すより、契約する時点で決めておく
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
解除でもめたときに強いのは、その時点で記録を持っている人です。後から集めることはできません。だから、契約する時点で決めておくことになります。
①口頭で済ませない
媒介契約書を必ず交わし、控えを受け取ってください。 書面がないまま活動だけが進んでいる状態では、義務の内容そのものが定まりません。
②契約する前に、3つを確認しておく
- 連絡は、どういう形で、どのくらいの頻度で来るのか
- 途中でやめられるのか、やめられないのか
- やめられるとしたら、どういう場合か。そのとき費用はどうなるのか
3つ目まで聞いておく方は、多くありません。ただ、聞いておけば、後から「そんな話は聞いていない」にはなりません。 やり取りをメールで残しておけば、なお確実です。
③やり取りは、電話ではなく記録の残る形で
電話でも、LINEやSMSでもなく、メールで。 LINEは相手が消せば消えますし、端末を変えれば残らないこともあります。LINEが記録として弱い理由と、記録の残し方は、それぞれ別の記事で書いています。
解除は、どう伝えるか
電話で「やめます」と言って終わり、にはしないでください。いつ伝えたかが残らないためです。
費用の話になったとき、争点のひとつは「いつまでの活動が対象か」です。解除を伝えた日が特定できないと、そこも曖昧になります。
まずはメールで
解除通知書という書式を探される方がいます。会社によっては所定の用紙を用意していることもありますが、決まった様式が法律で定められているわけではありません。
いきなり構えた書面を送る必要はありません。まずはメールで、日付と意思を残してください。 解除方法として、これで足りることがほとんどです。書くのは次の項目です。
- 媒介契約の締結日と、対象の物件
- 解除したいという意思(「解除いたします」と明確に)
- いつ付けで解除としたいか
- 費用の請求があるなら、根拠と内訳を書面で示してほしいこと
最後の1行を入れておくのが要点です。先に根拠を出してもらう形にしておくと、後から金額だけを告げられる展開になりにくくなります。
理由を細かく書く必要はありません。むしろ、感情的な経緯を長く書くと、そこが争点になります。事実と日付だけで十分です。
請求されたら、4つを確認する
実際に金額を提示されたら、その場で受け入れず、順に確認してください。
- 請求の根拠を示してもらう——媒介契約書と約款の、どの定めに基づくのか
- 金額の内訳を出してもらう——何にいくらかかったのか。広告費なら、どの媒体にいつ掲載したのか
- 実際に支出したものか——約款が定めているのは「媒介契約の履行のために要した費用」です。見込みや人件費の概算ではありません
- 上限を超えていないか——約定報酬額を超える請求は、約款上できません
4つ目は、その場で確かめられます。仲介手数料の目安を超えた金額を提示されているなら、その時点で約款の定めと合いません。
やり取りはメールで行ってください。
折り合わないときの順番
いきなり構えないでください。段階があります。
- メール——まずはここ。日付と意思を残し、請求の根拠と内訳を求める。多くはこの段階で収まります
- 免許を出している役所に相談する——都道府県知事免許なら都道府県庁、国土交通大臣免許なら地方整備局。無料で相談できます(相談先の調べ方と使い方)
- 弁護士に相談する——金額が大きい、話がまとまらない、相手が弁護士を立ててきた。そのときは、こちらも相談してください
役所への相談は、費用がかからず、宅地建物取引業法に沿った義務の話であれば筋が通ります。 ただし、金額をめぐる民事の争いそのものは、免許を出している役所の管轄ではありません。 そこは弁護士の領分になります。
相手の会社が、なくなることもあります
逆の事態もあります。解除の話をしようとしたら、相手の会社のほうが存在しなくなっていた。
廃業、解散、破産。宅地建物取引業法は、こうした場合に30日以内の届出を義務づけていて、届出があれば免許はその効力を失います(第11条)。行政処分によって免許が取り消されることもあります。
相手がいなくなれば楽になりそうに思えますが、実際は逆です。
- 解除を申し入れる相手がいない
- 預けた鍵や書類が戻ってこない
- レインズの登録がどう扱われたか分からない
- 媒介契約が終わったのかどうかも、はっきりしない
ただし、そのまま放り出されるわけではありません。条文にこう定められています。
(免許の取消し等に伴う取引の結了)
第七十六条 (中略)当該宅地建物取引業者であつた者又はその一般承継人は、当該宅地建物取引業者が締結した契約に基づく取引を結了する目的の範囲内においては、なお宅地建物取引業者とみなす。
免許が失効しても、すでに結んだ契約を終わらせるための範囲では、宅地建物取引業者として扱われるということです。責任がそこで消えるわけではありません。
とはいえ、相手が実際に動ける状態にあるかどうかは、別の話です。だからこそ、契約書の控えを自分で持っておくこと、鍵や書類を預けっぱなしにしないことが効いてきます。
会社の状況は、免許を出している役所で確かめられます(相談先の調べ方と使い方)。免許取消は実際に起きていて、公表もされています(行政処分214件の分析/処分歴を無料で調べる)。契約する前に一度見ておくと、この事態にあたる確率は下げられます。
一般媒介の場合
一般媒介契約は複数社に依頼できる形なので、拘束が弱く、解除もメールで足りることがほとんどです。
ただし、注意点が3つあります。
①期間の上限は、法律ではなく約款から来ています
法律上の「3か月」の上限は、専属専任媒介・専任媒介についての定めです。 一般媒介契約には、法律による期間の制限がありません。
ただし、標準媒介契約約款を使っている場合は、一般媒介契約も「3か月を超えない範囲で定める」とされています。 法律ではなく、約款による制限です。
②費用の請求が、まったくないわけではありません
「一般だから何をしても自由」ではありません。標準一般媒介契約約款には、費用の償還について次の定めがあります。
- 重ねて依頼する会社を明示する義務があります(明示型の場合)。明示していない会社に依頼して成約させたときは、それまでの費用の償還を請求できるとされています。上限は約定報酬額です
- 自分で見つけた相手と契約したとき、または他社の媒介で成約したときは、遅滞なく通知する義務があります。この通知を怠り、会社が成約後にそれと知らないまま費用を支出した場合、その費用の償還を請求できるとされています
実務として、一般媒介でここまで請求されることは多くありません。ただし「請求される可能性が低い」ことと「定めがない」ことは、別のことです。
とくに2つ目は見落とされがちです。決まったら、すぐ伝える。 それだけで避けられます。
③そもそも取り決めがないこともあります
期間の欄が埋まっていない、解除や費用について何も書かれていない。一般媒介ではそういう契約書に出会うことがあります。
取り決めがなければ揉めない、ということではありません。拠りどころがないぶん、話し合いになったときに互いの言い分だけが残ります。 一般媒介であっても、契約書の期間欄と費用の条項は実際に目で見て確かめてください。
不安があるなら、契約の形から変える
「この会社で大丈夫だろうか」という迷いがあるまま、3か月の専任媒介契約を結ぶ必要はありません。
有効期間の「3か月」は上限です。 条文は「三月を超えることができない」と定めているだけで、それより短くすることは自由です。
- 期間を1か月にする——動きを見てから、続けるかどうかを決められます
- 一般媒介から始める——複数社に依頼できるため、拘束が弱くなります
- 書式について相談する——報告の方法や解除の条件を、契約書に書き込めないか申し入れる
1か月にしたいと申し出ることは、失礼にはあたりません。会社の側から見れば、期間内に結果を出すという話になるだけです。実務の肌感として、断られることはほとんどありません。
契約の形そのものを選べることについては、媒介契約書へのサインは「お願い」ではなく「契約」で詳しく書いています。
安易に長く縛られる理由は、売主の側にはありません。
いちばんもめないのは、期間満了を待つこと
すでに契約してしまっている場合、途中解約にこだわらず、期間満了を待つのが最も確実です。
条文では、更新は依頼者の申出によるものとされています(第34条の2第4項)。こちらから申し出なければ、契約は期間の満了で終わります。 自動的に更新されることはありません(自動更新は無効)。
残り1か月なら、待つほうが早いこともあります。費用の話にもなりません。
標準媒介契約約款でも、更新しようとするときは、依頼者から不動産会社に対して文書で申し出るものとされています。こちらが何も言わなければ、更新されないのが原則です。
ただし、満了の日はこちらで把握しておいてください。「更新しますね」と言われて、そのまま流れる形が実際にあります。 更新しないなら、満了の前に一度メールで伝えておくのが確実です。
やめた後も、2年間続くものがあります
ここは、ほとんど知られていません。
標準媒介契約約款には、直接取引についての定めがあります。
媒介契約の期間中、または期間が満了してから2年以内に、その不動産会社の紹介で知った相手と、会社を外して直接契約した場合。 会社は、契約の成立に寄与した割合に応じた報酬を請求できるとされています。
つまり、こういう形は想定されています。
- 内覧に来た人がいた
- そのまま話がまとまらず、媒介契約を解除した
- 後日、その人と当事者だけで売買した
解除したから関係が切れた、とはなりません。 2年という期間が定められています。
これは、避けるべき落とし穴という話ではありません。知らずにやってしまうと、後から請求されて驚くことになるという話です。
紹介を受けた相手と直接取引したいのであれば、会社に伝えたうえで、報酬をどう扱うかを決めてから進めてください。 隠して進めるのが、いちばん危ない形です。
まとめ
- 媒介契約は契約。原則として一方的にはやめられない。応じる会社もあるが、それは会社の判断であって売主が一方的に行使できる権利ではない。落ち度のない会社があっさり応じてくれたなら、それは幸運
- 約款には違約金と費用の償還の両方がある。途中解約は費用の償還(上限は約定報酬額)、期間中に他社で成約した場合や専属専任での自己発見取引は違約金(約定報酬額に相当する額)
- 専任は自己発見取引ができるが、した場合は費用の償還の対象。しかも契約しようとする前に通知が必要。専属専任は自己発見取引そのものができず、違約金になる
- 約款の定めに反する特約で、依頼者に不利なものは無効。法律(第34条の2第10項)と約款の二重で守られている
- 約款には解除の手順が定めてある。義務を果たさない相手には期限を切って催告し、応じなければ解除できる。信義誠実義務違反・重要事項の不告知や虚偽・不正な行為があれば、催告なしでも解除できる
- 催告そのものが記録になる。何も求めずにやめると「会社に落ち度がないまま解除した」形になり、費用の話で不利になる
- 請求されたら根拠・内訳・実費か・上限超過の4点を確認する
- 会社が強く出るのは、その物件を契約できる案件として見込んでいるから。弁護士や内容証明は、契約の重さを示すサインでもある
- 請求を退ける根拠になるのは相手の義務違反。ただし「あったこと」ではなく「示せること」が分かれ目。大半は「言った言わない」で止まる。効くのは記録
- 有効期間・レインズ登録・報告頻度について法律に反する特約は無効(第34条の2第10項)。契約書に書いてあっても効かない
- 解除方法はメールで、日付と意思を残すのが基本。解除通知書に決まった様式はない。根拠と内訳の提示を先に求めておく
- 折り合わないときの順番はメール → 役所へ相談 → 弁護士
- 相手の会社がなくなることもある(廃業・解散・破産で免許は失効/第11条)。ただし結んだ契約を終わらせる範囲では、なお業者として扱われる(第76条)。契約書の控えと、預けた鍵・書類の扱いが効いてくる
- 一般媒介も費用償還の定めはある(明示義務違反/成約の通知を怠った場合)。請求される可能性が低いことと、定めがないことは別。決まったらすぐ伝える
- 「うちなら安くします」「お客様がいます」で切り替えると、違約金を払うのは売主。本当に買主がいるなら、いまの会社を通して紹介できる。先に確かめるのは、いまの会社に落ち度があるかどうか
- 不安があるなら期間を1か月にする。3か月は上限であって、短くするのは自由
- すでに契約済みなら、期間満了を待つのが最ももめない。約款上も更新は依頼者から文書で申し出るもので、黙っていれば更新されない
- やめた後も2年間、その会社の紹介で知った相手と直接契約すると、寄与に応じた報酬を請求されうる(直接取引)
「大丈夫だろう」と思って進めた結果、後から確かめる手段がないと気づく。これがいちばん多い形です。
媒介契約は、それだけ重い契約行為です。だからこそ、慎重に進めることが自分を守ることになりますし、この先の展開を自分で選べる状態に置くことになります。
決めるのは、売主自身です。

